2019年10月、釘書房2冊目の単行本「ホラーアンソロジーコミック『BAD END』」が発売された。
前作の『恐怖漫画短編集 孤独』と同様にホラー漫画マニアの緑の五寸釘氏が私財をつぎ込み制作した同人誌だ。
今回も多くのホラー漫画作品のなかから、マニアならではの目線で単行本に収録されず眠っていた作品を掘り出して収録している。
この記事では「ホラーアンソロジーコミック『BAD END』」の収録作品と私の感想を紹介する。
収録作品のあらすじ
『ハヤリヤマイ』有田景
島田マリコは何人もの男子から愛の告白を受け、うんざりしていた。
ただ1人、冷静に話しかけてきた望月ユタカには一目置いた。
翌日、学校全体に奇妙な病気が流行り始めた。
『5月12日月曜日』奥田りょう
雅哉は17回目の5月12日を迎えた。
明日はゆう子との結婚式だと言うのに、何度寝起きしても5月12日の朝に時間が戻ってしまう。
そのとき、ゆう子は……。
『見てるだけ』奥田りょう
いろいろな人の死の場面に現れ、片隅で見ている女。
彼女の正体とは……。
『ヤーボ』白井裕子
翼・正一・景太は迷い込んだ森で、山の守り神「ヤーボ」に出会った。ヤーボは動物を治癒できる不思議な力を持っていた。
3人はヤーボの優しさに触れ、安心して森で一夜を明かした。
翌日、彼らは家への帰り道を発見する。
途中で怪我を負った子鹿を発見した翼は、子鹿を助けるためヤーボのもとへ引き返した。
一方、いなくなった3人を探していた人々は「あること」を心配していた。
『狂気水路』猫黒ノミコ
中学生のみくるは、団地の片隅にあったマンホールの穴に落ちてしまった。
その穴に続く下水路には怪しい「白い人」が出没すると噂になっていた。
みくるは小学生の頃から、その穴にイヤなものを放り込むと知らないうちに消してくれる「魔法の穴」として便利に使っていた。
みくるは穴の中で「白い人」に遭遇した。
『呪われた黒板』児嶋都
エツ子のクラスに奇妙な噂が流れた。
人骨で作られたチョークで黒板に呪いを書くと、実行されるという噂だった。
ある日、黒板に「ゆり子死ね」の文字が書かれ、クラスメイトの浅野ゆり子が死んだ。
誰が呪いの文字を書いたのかと皆が噂していると、担任の五味川先生が強く叱ったが……。
『いとしのおにんぎょう』ぽんぽんにないない
私はお手製の人形「まゆみちゃん」を大事にしていた。
まゆみちゃんとの出会いは通学中の駅のホームだった。
仲良くなりたくて、後をつけたり、手紙を書いたり、家まで行ったりしたのにまゆみちゃんは私を拒絶した。
だから私は……。
『脂肪流し』野口千里
仲良し3人組の美穂・民恵・佳代のうち、佳代には年に1度激ヤセする習慣があった。
佳代は痩せると急に性格が変わり、社交的になって、寄ってくる男たちと遊んでいた。
民恵は美穂とともに佳代を呼び出し、問い詰めて、秘密のダイエット方法を聞き出した。
その方法とは、信じられないような奇天烈なものだった。民恵は早速試してみたが……。
『猫化け』忌木一郎
伊佐木のクラスメート・草薙ユイは、可愛がっていた猫が殺されて以来、奇行に走るようになった。
猫の鳴き真似や仕草を真似して猫そのものに成りきり、学校にも行かず、伊佐木の部屋に住みついた。
無邪気に戯れてくるユイを前に、伊佐木はある衝動を感じた。
『CLAY』BLZ
私は友人のマリちゃんの結婚披露宴に来ていた。
小学校時代のマリちゃんは人と同じ物が食べられず、給食では一人紙粘土を食べていた変わり者だった。
披露宴の最中に母から電話がかかってきた。
「私、マリちゃんの披露宴にきてるの」
「マリちゃんって誰?あんた小学校なんてほとんど行ってなかったじゃない」
じゃあ高砂席に座っているのは……?
『七百年の呪縛 人を喰らう蟬』坐磨屋ミロ
香織は自由研究のため、茜と昆虫採集に向かった。
2人は香織の兄から聞いた700年前の蟬を探して森に入っていた。すると、巨大な蟬が現れた。
『こえる』オガツカヅオ
タケシは夜な夜な白い化け物に襲われる悪夢を見ていた。
妻・友恵の失踪後、タケシは1人で認知症の母の介護をしており、妻は介護がイヤで出て行ったのだと考えていた。
ある日友恵の妹・ともかから電話があり、友恵は海外旅行中だとごまかしたが、すぐに嘘を見破られてしまった。
2人は友恵がいるときから、密かに関係を持っていた。
ともかが家に押しかけタケシにのしかかると、背後から白い化け物が現れた。
『微笑みの造形』鯛夢(時任竹是)
山崎麻樹は高校の入学式で、自分が描いた絵の中の人物にそっくりな男と出会った。
その男、正希は麻樹の理想そのもので、2人はすぐに付き合いはじめた。
友人・浩から正希は怪しいと警告されたが、麻樹は取り合わなかった。翌日の午後、浩は殺された。
作品以外
- 表紙:呪みちる
- 扉絵:伊藤潤二
- 目次:金風呂タロウ
- オマケ漫画:崇山祟
- 挿絵:MODEL.T
感想
イカれたバッドエンド作品多数
数多くのホラー漫画を読んできた緑の五寸釘氏だけあって、選ばれた漫画はどれも素晴らしいものばかりだ。
本書の題名どおり、大体バッドエンド。かつ、ストーリーがクレイジーなものが多い。
私のお気に入りは『CLAY』だ。
読み進めていくとあれ?なんか変だなと思うひっかかりが何個かあって、ドドーンと「アレ」が出てきてマジか!!やべぇーーーーー!!とニヤついてしまった。
この作品を単行本にしてくれただけでもうれしい。
『脂肪流し』もなかなかのイカれっぷりだ。
というよりも、あの方法が思いついた野口先生がヤバい。
あまりの狂いっぷりに圧倒されていると、結末でさらに驚かされた。
装丁や扉絵などすべてが美しい
まず、呪みちる先生の表紙がすごい。
呪先生らしいかわいい少女と、バッドエンドを表現した絵がクールだ。表紙イラストに対し、裏表紙は少々グロいので閲覧注意だ。
カバーを外すとイラストが完成する過程のラフ案も見られる。
扉絵の伊藤潤二先生も最高だ。
先日の原画展に出品された「妖女シリーズ」に登場しそうな妖しいキャラクターが素敵だ。
このわけのわからなさが好きで、ずっと眺めていられる。
目次の金風呂タロウ先生もいい。
これから読む作品たちがいかに危険なのかが伝わってくる、湿り気満載だ。
前作の『孤独』に続いて収録された崇山祟先生のオマケ漫画もおもしろい。
たった1Pなのに印象に残る。卵を割ったあとのトシ子の表情が好き。
奥付とその前のページのイラストはMODEL.T氏の作品だ。
MODEL.T氏は緑の五寸釘氏が「師匠」と呼ぶ人物で、ひばり書房など怪奇漫画の収集家でもある。
Twitter上で怪奇テイストなイラストを発表している。
全体として、緑の五寸釘氏のこだわりが発揮され、カバーや紙の質の良さなどのクオリティーも同人誌ばなれしている。
カバーにはタイトル以外なにも書かれていないところが、カッコいい。
おわりに
緑の五寸釘氏は数あるホラー漫画の単行本や雑誌掲載作の中から光るものを発掘し、日夜Twitterでシェアしている。
それを見ていると単行本になっていない未知の作品の中にも、おもしろそうなものがたくさんあり、収集意欲がそそられる。
今回その中のいくつかが単行本としてまとめられたのは快挙だ。私は応援するため、早速4冊購入した。微力ながら今後のホラー漫画布教活動に参加したい。
また来年にも次の本を出してくれるよう、期待している。
「BAD END」はBOOTHや、まんだらけの通信販売で購入できる。
気になったホラー漫画ファンはぜひ購入して収録作品を楽しんで頂きたい。