伊藤潤二作品のなかでも、異様な読後感を残す作品といえば『サーカスが来た』だ。
小さな町にやってくる奇妙で不気味なサーカス団によって繰り広げられる演目は見ているこちらが不安になるようなストーリー。そんな奇作を作り出すのも伊藤潤二先生の魅力だ。
この記事では『サーカスが来た』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『サーカスが来た』のストーリー【ネタバレ】
田舎の小さな町にサーカスがやってきた。
ヨシユキは追いすがる妹・ヒロコを振り切ってサーカスに向かう。
テントに入るとサーカスが始まった。
団長によって呼び出された3人の玉乗りピエロ。その動きはなにかぎこちない。
3人のうち1人のピエロが玉からすべり落ち、頭を強く打って動かなくなった。
残った2人のピエロが動かなくなったピエロを引きずって退場していく。
続いて登場したのは美しいレリア嬢による綱渡り。
ヨシユキは少し前に公園で見た女の子がレリアだと気がついた。
サーカスが来たと噂になった頃から公園で見かけるようになった美しい女の子。
何をするでもなくボンヤリとしていたその子はサーカスの子なのではないか。
そう思っていたヨシユキの予感は的中したのだ。
観客たちはレリアの美しさに心を奪われている。そのうちにレリアは綱を渡りきった。
次に登場したのは3段肩馬綱渡りだったが、途中で足をすべらせて落下。
3人とも動かなくなってしまった。
ピエロたちが3人を引きずり、舞台裏に消えていく。
観客のざわつきが大きくなる。
ヨシユキの妹・ヒロコはサーカスの入口が分からず、彷徨っていた。
業を煮やしたヒロコがテントをめくってみると、ピエロが転がっている。
そしてナイフ投げのジョーたちの会話が聞こえてきた。
「今までサーカスに登場したのは素人で、プロであるジョーこそがレリアを手に入れるに相応しい」
ジョーのナイフ投げが始まった。
的になった人間の避けてギリギリのところに刺さるナイフ。観客は盛り上がる。
団長相手に勝ち誇るジョーだが、団長から最後のナイフを渡された。
ジョーが最後のナイフを投げると、そのナイフは大きくハズレて関係のないところに刺さる。
団長にチクリと言われたジョーは憤り、的に向かってナイフを投げると、的になっていた人間に刺さり、死んでしまう。
諦めきれないジョーは新しい曲芸を披露する。
寝そべりながら空中にナイフを投げ、ジョーの身体ギリギリのところに刺さるという芸だった。
1本目は成功したものの、2本目がジョーの命を奪ってしまう。
そしてジョーも引きずられて、舞台から消えていった。
次に出てきたのは火を吹く大男だったが、火を吹いた途端に自らが燃えてしまった。
その後も人間ロケットや猛獣使いが出て来るが、いずれも無残に終わる。
最後に登場したのはイケメンのマリオによる空中ブランコ。
必死に止めるレリアだったが、マリオは挑戦してしまい、落下し亡くなった。
団長の声が響く。団員の死によるサーカスの危機。そしてサーカスへの参加希望を呼びかけた。
スターになればレリアを花嫁にできるという条件をつけて。
団長が話をするのに気を取られているその時、レリアを救おうとしていたピエロ。
そのピエロの動きを見逃さなかった団長はジョーがミスで刺したナイフを動かし、ピエロを殺してしまった。
観客たちは思わず息を呑んだ。
ヨシユキの家ではヒロコがママに泣きついていた。
「お兄ちゃんたちがサーカスの車に乗ってどこかにいってしまった」
『サーカスが来た』のおすすめポイント
最初から最後まで奇妙な味わい
サーカスがスタートしてから次々と亡くなっていく団員たち。
ジョーからその秘密が明かされるまでは、サーカスへの疑問が消えない。
なぜぎこちない団員のサーカスを見せられているのか分かったとき、団長の恐ろしさを知るのだ。
『サーカスが来た』では、不気味なサーカスの始まりから、ヒロコが語る最後のコマまでジリジリと続く奇妙な味わいが楽しめる。
レリア嬢と団長
ヨシユキが公園で目を奪われた美女レリア。観客や団員までもがレリアの魅力に逆らえない。
レリアの魅力こそがサーカスの源になっているし、これからもそうなるだろう。
読者もレリアの美しさに息を呑むのではないだろうか?
そして不気味な団長。サーカスが終わる頃には団員がいなくなってしまう。
これは団長の力なのだろうか?
素人が集められたと思えば、そのミスも仕方がないのではないかと思う。
しかし、ジョーのナイフをコントロールしていたような描写や、終盤でピエロをナイフで始末した描写を見ると、団長が何かのパワーを持っていることは間違いないだろう。
団長の不気味さも味わい深い。
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