2019年5月からAmazonのプライムビデオチャンネルで『ホラー漫画劇場』の放送がスタートした。
『ホラー漫画劇場』は毎回ゲストとしてホラー漫画家が登場し、ホストの山咲トオル、笹木香利と漫画家自身の作品を中心に話すトーク番組だ。
この番組は山咲トオル先生をホストに起用したところがいい。
タレントでもありホラー漫画家でもある、山咲先生だからこそ引き出せるエピソードトーク。タレント活動で磨かれたトークの回しも軽快だ。
現在はホラー漫画家のトークをじっくりと聞ける場は限られる。
当番組では作品の描く上での裏話や、漫画家の思いなどが語られ、作品を理解する上で、ファンとしてはぜひ見たい番組だ。
第1幕 日野日出志 編
初回のゲストはホラー漫画界の大御所、日野日出志先生。
1946年に満州チチハルで生まれ、1967年COMでデビュー。独特のタッチで「怪奇と叙情」をテーマとした作品を多数発表している。
代表作は『蔵六の奇病』『地獄変』『赤い蛇』など。
近年は銚子電鉄が発売している菓子のキャラクター「まずえもん」のデザインや、絵本の作画など仕事の幅を広げている。
今回深堀りする作品は『蔵六の奇病』だ。
百姓の家に生まれた青年・蔵六は顔面に七色のデキモノがあり、言葉も上手く話すことができなかった。
やがて蔵六のデキモノは身体中に広がってしまう。
デキモノがうつるのではという恐怖と周囲の視線に耐えられなくなった蔵六の父と兄は蔵六を人が寄り付かない「ねむり沼」の前のボロ家に追いやることにした。
母だけは蔵六を気にかけ毎日食べ物を届けていたが、それすらも禁じられてしまった。蔵六は母を追いかけてきたところを村人に見られ、追い返される。
デキモノが全身に広がった姿を見た村人たちは決起し、蔵六を殺すため、森へと向かった。
- 『蔵六の奇病』が形になるまで
- 蔵六が亀になった理由
- 膿だらけのキャラクターを思いついたきっかけ
- お父さんが買ってくれた六色のクレヨン
- 25~26年前、山咲トオル先生と対談した
- 日野先生が怖いのは「人」
私が特に面白かったのは「蔵六が亀になった理由」だ。
日野先生は蔵六が病死したり、村人に殺されるのでは救いがないと悩んでいた。
何気なく友人に話すと「蔵六ってどういう意味?」と聞かれ、広辞苑で「蔵六」と引いてみたら、「古語で『亀』の意」と出た。
蔵は「物を収める」の意味、六は頭・手足・しっぽを意味している。
この意味を知って、日野先生はやっと結末を描くことができた。
こうして、グロテスクなデキモノに覆われた青年が七色の亀に変身し、美に昇華するラストシーンが生まれた。
日野先生が酒の場でも広辞苑を手元に置いていたのには驚かされる。
代表作、自分の柱になるような作品を生み出すために1年近く描いては直しを繰り返していた苦労が、辞書からネタを持ってきて、結末が決まったのも意外な展開だ。
第2幕 児嶋都 編
第2回目のゲストは児嶋都先生。
1990年にデビュー。楳図かずおの影響を感じさせる耽美なホラーとギャグテイストの作品を数多く発表している。
代表作は『肉子ちゃん』シリーズ『眼球綺譚』(作画)など。
ホラー映画への造詣も深く、近年はホラー映画『サスペリア』をテーマとしたバー「カンビアーレ」のカウンターに立つこともある。
今回深堀りする作品は『怪奇!包帯女学生』だ。
私の親友・くるみちゃんはある日顔に塩酸がかかる事故に遭い、包帯を巻くようになった。
私はくるみちゃんから犯人ではないかと疑われていた。
くるみちゃんのおかげで私はパフェを食べに行くことも許されず、恋した男の子はくるみちゃんに殺されてしまった。
それでも、私はくるみちゃんを憎むことはできず、自宅で悲しみに暮れた。
その時、母からくるみちゃんの一周忌に出かけると言われた。
- 少女漫画のなかの「ホラー漫画」
- ストーリーの作り方
- ホラーは怖いよりも「面白い」
- 漫画からイラストエッセイやイラストがメインの仕事に
- 山咲トオル先生との友情
- 山咲トオル先生が見た「児嶋奇談」
私が特に面白かったのは「山咲トオル先生との友情」と「児嶋奇談」だ。
児嶋都先生が綾辻行人先生原作の『眼球綺譚』を描いているとき、山咲トオル先生が手伝いに来てくれたそうだ。
二人は同じ雑誌に連載することが多く、お互いに電話で進捗を伝え、先に描き終わったほうが手伝いに駆けつけていた。
『眼球綺譚』を描いている当時、児嶋先生は多忙を極めており、1週間に3時間の睡眠で頑張っていた。
いよいよ限界がきて10秒おきにのけぞってガクンガクンとなりながらも描き続けていたらしい。(すごい!)
山咲先生は勝手知ったる児嶋先生の原稿とあって、指示を待たずにどんど進めていた。(ちなみにこの頃、児嶋先生のアシスタントとして入っていた一人が呪みちる先生だそう)
そのようにして完成したのが『眼球綺譚』であり、児嶋先生いわく、二人の合作と言ってもいいほどだそうだ。
編集さんが原稿を見てもどちらが描いたものか分からないが、本人たちが見るとどちらが描いたかすぐ分かるとのこと。
山咲トオルが見た『児嶋奇譚』は『眼球綺譚』に収録されている。
二人の仲の良さを感じるエピソードだ。
同じ時代に切磋琢磨した友情が、素晴らしい作品を生み出していたことにジーンとした。
苦労話も笑いに変えてしまうお二人は、ホラー&ギャグテイストな作品そのままのキャラクターだった。
第3幕 伊藤潤二 編
第3回目のゲストは伊藤潤二先生。
1963年に岐阜県で生まれる。ホラー雑誌『ハロウィン』で開催された「楳図かずお賞」に応募した作品『富江』が佳作に選ばれデビュー。
美しい絵柄と奇想天外な発想で日本のみならず海外にも多くのファンを持つ。
代表作はシリーズ連作『富江』『双一』『うずまき』など。
収録時は『センサー』(朝日新聞出版) を連載中。
今回深堀りする作品は『長い夢』だ。
向田は「長い夢」に悩まされていた。
一晩の夢が何ヶ月、何年と感じられ、昨日のことを思い出すのも苦労するなど日常生活に支障が出るようになった。
そのうちに姿やイントネーションが変わり、異形の生物となってしまう。
そして、向田は今までで一番長い夢を見る。

- 『長い夢』『墓標の町』アイディアの源
- 描きたいのは「闇で輝いているような絵」
- 漫画家になるきっかけは歯科技工士時代の「体重50kgと体調不良」
- 戦争が怖い
- 若い頃は対人恐怖症だった
- 歯科技工士学校時代に制作した金歯
- 作中に登場する「リアルウンコ」
私が特に面白かったのは漫画家になるきっかけだ。
伊藤潤二先生は幼いころから趣味で漫画を描いていたが、高校になって初めてペンとインクを使って描き始めたそうだ。
その後、歯科技工士として働き始め、仕事がハードで体重が50kgになるほど痩せてしまった。
体調も悪化し、このままでは40歳ぐらいで死ぬと思った。
どうせ40歳までしか生きられないなら好きなことをやろうと、本格的に漫画を書き始めた。
自らが大ファンである楳図かずお先生に漫画を見てもらって何かコメントがもらえればと思い、楳図かずお賞に応募した。
その結果、佳作だった。(佳作と言えど、他の受賞者はいなかった)
楳図かずお先生からは「ホラー心がある」と評され、うれしかったそうだ。
このエピソードは『伊藤潤二研究』のインタビューでも書かれている。
実際に伊藤先生の口から語られるのを聞くと、また違った印象を受けた。
インタビューでは軽快に話しているように感じたが、番組では噛みしめるようにお話していた。
当時の体力的なハードさや、楳図先生に漫画を読んでもらいたいという気持ちが伝わってきた。
実際に話しているところを見ることができ、ファンとして嬉しかった。
あとは伊藤先生が歯科技工士学校時代に作った歯の制作物や、『よん&むー』に登場した「リアルウンコ」の実物が見られたのも面白かった。
第4幕 呪みちる 編
第4回目のゲストは呪みちる先生。
デビュー当時はギャグ漫画を描いていたが、1998年に恐怖の館DXに掲載された「時計屋敷の少女」でホラー漫画に転向する。
妖しく美しい女性像は多くのファンを惑わせる。
代表作は『ライオンの首』『火星高校の夜』など。
収録時の近著は『顔ビル/真夜中のバスラーメン』
今回深堀りする作品は『黒い清涼飲料水』だ。
黒川はリストラ候補となり、場末のジュース工場に左遷された。
ところが、ここでZコーラという大ヒット商品を作ってしまう。
黒川は辞表を持って部長の前に現れると、Zコーラの秘密を語り始めた。
自分が子どもの頃に飲んだ中毒性のある「おじさんコーラ」のことを……。
- ホラー漫画デビューのきっかけは「山咲トオル先生」
- 怖がりだった子ども時代
- トラウマ漫画は「地獄の子守唄」「洗礼」
- 読者からの反応がなかった日々
- 漫画を描く時に大切にしているのは「不可解と謎」
- あれほど緻密に描きながらも「虫嫌い」
- ドンドン突拍子もないことが思いつく
- 読者が身に覚えのあることを描きたい
私が特に面白かったのは、呪みちる先生のトラウマ漫画が『地獄の子守唄』と『洗礼』だということだ。
呪先生は昔からホラー漫画を読んでいたが怖がりで、読んだ後は震え上がっていたそうだ。
当時印象深かったのは日野日出志先生の『地獄の子守唄』と楳図かずお先生の『洗礼』だった。
読むたびになんでこんなに怖いものを描くのかと怒っていたが、そのうち自分も誰かを怖がらせたいと思うようになった。
呪先生はいつも淡々と話しをされる。
子どもの頃怖がりだというのは意外だった。
呪先生は虫も嫌いだそうだが、虫の描写も実は多い。先生いわく、描くと征服したような気持ちになるそうだ。
ホラー漫画もそういう気持ちで描いているのかもしれない。
『ホラー漫画劇場』の視聴方法
『ホラー漫画劇場』はAmazonの動画サービスの1つ「チャンネル恐怖」で配信されている。
「チャンネル恐怖」を視聴するにはAmazonプライム会員(年/4,900円)になったあとに「チャンネル恐怖」(月/550円)に登録する必要がある。
『ホラー漫画劇場』が気になった方はまず試し見してみてはいかがだろうか。