2018年8月、釘書房より初の単行本『恐怖漫画短編集 孤独』が発売された。
本書はホラー漫画マニアの緑の五寸釘氏が私財をつぎ込み制作した同人誌だ。
同人誌と言っても他とちょっと毛色が違うのは、収録されている全ての漫画がプロの作家によるものであること。
一度商業誌に掲載されたものの単行本未収録となっていた作品に光をあてる、氏ならではのチョイスが面白い。
この記事では、全体像と私の感想を紹介する。
『恐怖漫画短編集 孤独』収録一覧
全部で10作品が収録されている。
収録作品
- 稲垣みさお「窓のむこうがわ」
- 杉原那月「ママのハンバーグ」
- 真山創宇「恋い焦がれる島」
- 祟山祟「鏡地獄」
- 加藤山羊/矢樹純「山童」
- 神田森莉「人間の形をしていない赤ん坊」
- 紫原むかで「刺す」
- 渡辺保裕「湿っぽい部屋」
- 小津哲也「夢」
- 近藤宗臣「見知らぬ女」
装画
- 表紙絵:雨がっぱ少女隊
- 扉絵:谷口トモオ
- 目次絵:高塚Q
作品ピックアップ
「窓のむこうがわ」あらすじ
友達から貰った双眼鏡で外を眺めていた高校生の美香は、同じように双眼鏡でこちら側を眺めていた少年・幸太を見つける。
不審に思った美香が家を訪ねていくと、幸太は病気で床にふせっており双眼鏡で外を見ることだけが楽しみだという。
美香は同情し、お互いに双眼鏡で見合うのが日課となった。
最初は楽しんで双眼鏡を覗いていた美香だったが、だんだん日課が負担になってしまった。

「鏡人間」あらすじ
小さい頃にコオロギを飼っていた主人公のサラリーマンは、通勤ラッシュのなかで電車に押し込められている自分もまたコオロギのようなものだと考えていた。
仕事と通勤の疲労から幻覚を見るようになったある日、鏡を見ると、自分の顔がコオロギになっていた。
思わず鏡を割ってしまった主人公は、割れた鏡を加工して顔に装着し、電車に乗り込むのだった。

マニアによるマニアのためのホラー漫画
本書の最初を飾る「窓の向こうがわ」は、ひたひたと迫りくる恐怖を味わえる作品だ。可愛らしい少年幸太の表情が、ラストに向かうにつれ変貌していくのにぞっとする。
「鏡人間」は誰しもが狂気と隣り合わせであることを教えてくれる。結末にはあっと驚くような迫力の一枚絵が待っている。おぞましいが、引き込まれて見てしまう。収録作の中で、一番オチが好きな作品だ。
それ以外の作品もバリエーション豊かで、様々な作風が楽しめるアンソロジーの良さを感じる。緑の五寸釘氏のセレクトにうならされた。
トラウマ必至の作品もあり
本書には一部グロテスクな作品も収録されている。
私がもう無理!となったのは「ママのハンバーグ」
少女漫画風のカワイイ絵柄からは想像も出来ないグロキモ展開は、再読不能だ。
なんのこっちゃ、意味不明な不条理ホラーが「人間の形をしていない赤ん坊」
うわぁ……と思いつつ読んでいると、グロさと内容の狂い具合で頭痛がしてきた。

装丁から感じるホラーマンガ愛
本書は、表紙や目次絵に至るまでプロの作家を起用している。
同人誌であっても、本棚に並べたときに他と遜色のない体裁。厚み。ジャケットを一枚めくると、購入者だけが楽しめるおまけが隠されている。
一点気になったのは「山童」の写植が昔のワープロ文字を切り貼りしたみたいになっており、デザインが崩れているところ。
もしかしたら『ビッグコミック』掲載時にはデジタルでセリフ入れしているとかで、原稿には写植がなかったのだろうか。
予約特典の付録冊子「アクショ」に笑った

私がBOOTHで予約し待ちに待った本書が送られてきたときに同梱されていたのが、付録の小冊子「アクショ」だ。ホチキス本の体裁で、約10ページに渡って緑の五寸釘氏の編集後記が綴られている。
冒頭では作品に対する思い入れや、漫画家との交流の思い出が語られているのだが、すぐに脱線し、編者の少年時代のどうしようもないエピソードに切り替わる。公には書けないようなきわどいエピソードもあり、私はゲラゲラと笑いながら読んだ。
こんなに面白い「アクショ」が予約者しか読めないというのは残念だ。ちゃんと予約しておいてよかった!
おわりに
あくまでもマニア向けのラインナップだが、私は読んで面白かった。刺激を求めるホラー愛好家に、ぜひお勧めしたい。(なお、グロ耐性がない読者は控えた方が無難だ)
完売を祈念しつつ、僭越ながら紹介させていただいた。
緑の五寸釘氏には、ホラー漫画の知識をフル活用した目録を作って欲しい……。
『恐怖漫画短編集 孤独』は下記のページから購入できる。