伊藤潤二作品のなかでも、私が大好きな作品である『緩やかな別れ』
ホラーでキッツイ作品が多い伊藤潤二先生だが、『緩やかな別れ』はホラーというよりも心温まる作品だ。
この記事では『緩やかな別れ』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『緩やかな別れ』のストーリー【ネタバレ】
小さい頃に母を亡くしてから、璃子は父の死を恐れていた。
璃子は結婚し、夫・誠の家に入った。
誠の両親、祖父母ともに璃子には冷たかった。誠が一族の反対を押し切って璃子と結婚したからだ。
誠の妹・友香だけは璃子にやさしく接してくれていた。
その後、曾祖父母にも挨拶するが、こちらを見やるだけで、言葉を発することはなかった。
夜、父が亡くなる夢にうなされていた璃子を優しく慰める誠。
屋敷のなかを歩いていた璃子は、白く透けた老婆を目撃する。
驚いた璃子が、曾祖父母に幽霊だと伝えると、曾祖父母もうっすらと透けていた。この事を誠に伝えると、白く透けた老婆は高祖母だという。
むかしは高祖父もいたが、消えてしまったという。なぜ消えたのかと尋ねる璃子に誠は、「残像」だからだと答える。
その翌年、祖父が亡くなった。告別式が終わったあと、一族が集まり、念じ始めると、祖父が姿を現した。
誠いわく、それは霊でもなく、生き返ったわけでもなく「残像」であり、物理的に存在しているものではないという。
しかし、こちら側からは触られるし、会話もできるように感じる。それも錯覚だろう。
それでも一族が残像を作るのは家族を失ってできる心の埋めるためだという。
残像は約20年、家族として存在し、薄れて消えていく。
残像の話を聞いた璃子は自分の父が亡くなったときも残像を作ってほしいと誠に頼む。
誠は家族に頼むが、反対されてしまう。
部屋の隅で泣いている璃子に友香が慰めの言葉をかけにきた。
璃子が友香の顔を触ると友香は透け始めていることに気がつく。
友香について誠に聞くと、友香は10年前に亡くなっていることがわかる。
結婚から8年が経った。義父母は相変わらず冷たく、誠は新しい女性と作っていた。
誠にその女性の事を問いただすと、いずれは結婚するつもりだという。
しかし、璃子とは別れずに添いとげるという誠。
その後もみ合いになり、思わず璃子を叩いてしまった誠は今まで黙っていたことを告白する。
- 結納の前日に璃子が交通事故で亡くなったこと
- 璃子の残像を作ってもらうよう父に頼んだこと
- 一族一人ひとりに頭を下げて回ったこと
- 璃子の実家の墓に璃子の塔婆があること
自分が残像で、あと10年で消えてしまうと分かった璃子は、翌日家を出た。
璃子が消えるまで10年、父と璃子どちらが先か。それを考えているうちに実家についた璃子。
父から声をかけられた璃子は、「パパ、ただいま」と言って、実家に戻ったのだった。
『緩やかな別れ』のおすすめポイント
親族との緩やかな別れができる「残像」
親族が突然亡くなってしまったとき、それが急であれば急であるほど、心の整理がつかない。
そんなときに「残像」があれば、と思ってしまう。
お互いにゆっくりと時間をかけて、事実を受け入れていくには素晴らしい。
父の思い
璃子が亡くなっていて、それが残像だと知っていた父はどんな思いだっただろうか。
義祖父の葬儀に来たとき、実家に戻ってきた璃子を迎えたとき、その温和な表情からはどんなにやさしい父なのかがうかがえる。
父は娘が亡くなっていることを知りながらも、愛情を注いていると思うと、思わず涙腺が緩んでしまう。
『緩やかな別れ』はちょっとホラーでホッとする話が好きな方におすすめ
『緩やかな別れ』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『緩やかな別れ』が収録された単行本を購入するなら『魔の断片』
伊藤潤二先生の奇作『木造の怪』も収録されている。