藤子不二雄Aが結婚詐欺師を描いた『愛ぬすびと』【あらすじ・考察】

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藤子不二雄A『愛ぬすびと』あらすじ・解説

結婚詐欺師が主人公の『愛ぬすびと』は、1973年より女性セブンで連載された大人向けのブラックユーモア作品だ。
その後に連載された『愛たずねびと』とセットで「愛シリーズ」とも呼ばれる。

この記事では『愛ぬすびと』のあらすじと被害者を紹介しつつ、誠の手口を考察する。

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あらすじ

愛誠(あい・まこと)は旅行代理店に勤務するかたわら、結婚詐欺を繰り返していた。
一見ただの悪人にしか見えないが、詐欺に手を染めるのは心臓病を患う妻・優子のためだった。

『愛ぬすびと』誠の給料
出典:藤子不二雄A『愛ぬすびと[完全版]』p52(復刊ドットコム)

注意
ここから先は作品の結末に言及している。未見の方はご注意願う。

被害者名簿

1 北山昌子(33歳)

友人の結婚式で誠と出会う。33歳という年齢を引け目に感じていることを見透かされ『年寄りぶるな』と一喝されて、誠に好意を持つ。
被害:10万円

2 鳥羽範子(28歳・OL)

誠がわざと落とした定期を拾い、自ら届ける。生真面目でおもしろみがない性格を気にしていたが、誠のアドバイスにより、のびのびと素直な自分を表現できるようになった。

被害:20万円

『愛ぬすびと』鳥羽範子
出典:藤子不二雄A『愛ぬすびと[完全版]』p44(復刊ドットコム)

3 志木玲子(26歳・家事手伝い)

婚活パーティーで誠から服にジュースをかけられ、シミを隠すためネクタイをかりる。わざとクールによそおっているところを誠に見透かされ、一気に気を許す。

被害:20万円

4 新島時枝(23歳・銀行勤務)

勤めている銀行の窓口にて誠に口説かれるが断る。しかし、勤務終了まで外で待っていた誠にほだされて食事に行き、誠を気に入る。

勤めている銀行の窓口で誠に口説かれるが、一旦は断る。後日、勤務終了まで外で待っていた誠にほだされて食事に行き、熱心に口説かれて交際を承諾する。

被害:20万円

5 津田巴(30歳・OL)

巴の妹・礼子は女子大生。ゴルフ場で誠と出会い、仲良くなった。巴は初め、軽薄な誠を嫌っていたが、礼子ではなくあなたが必要だと言われ、誠と結婚する気になる。

被害金額:8万6千円相当のゴルフセット

『愛ぬすびと』津田巴
出典:藤子不二雄A『愛ぬすびと[完全版]』p99(復刊ドットコム)

6 北見順子(24歳・OL)

女ばかり3人で海外旅行の行き先をめぐって話し合っていたところに突然誠が乱入してくる。その時誠が忘れていったガイドブックには「順子さん、あなただけにお会いしたいのです」と書かれたメモが挟まっていた。

被害:29万円

7 志摩美幸(29歳・OL)

200万円が入ったカバンを持ち一人で室生寺にきたところ、誠と出会う。これは仏の導きとばかり求婚する美幸に対し、誠は妻の顔がちらつき……。

被害:なし

8 椎名綾子(27歳・ホステス)

麻雀好きの知人に誘われ、自宅で誠、誠の同僚と共に麻雀に興じる。誠の金払いの良さや女に関心のない様子を気に入り、結婚相手として考え始める。

被害:20万円

『愛ぬすびと』椎名綾子
出典:藤子不二雄A『愛ぬすびと[完全版]』p168(復刊ドットコム)

9 清水みさお(24歳・OL)

旅行中に具合が悪くなりしゃがみこんでいたところ、誠から声をかけられる。薬を持って戻ってきてくれた誠を気に入り、後日積極的にアプローチしてくる。みさおは父がすすめる縁談がいやで、断る口実として誠に協力してもらいたいのだと言う。

被害:-20万円

10 生田薫(26歳)

妻子ある男性と京都旅行の約束をしていたが、すっぽかされてしまう。傷心の新幹線で隣に座った誠にしつこく話しかけられ、誠のひょうきんさにほだされて共に旅行することになる。

被害:数万円?

『愛ぬすびと』生田薫
出典:藤子不二雄A『愛ぬすびと[完全版]』p211(復刊ドットコム)

11 筒井可憐(23歳)

スナックカレンの看板娘。妻の手術代に頭を悩ませ、ふらりと入ってきた誠と知り合う。酔っ払った誠を家まで送り、そのまま関係を持ってしまう。

被害:-30万円

最終話 愛優子(22歳)

何も知らなかった優子は、被害者からの手紙で夫の悪事を知ってしまう。バレたことに気がつかない誠は優子が手術を受けられると知り、喜ぶが……。

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考察・解説

愛誠 結婚詐欺の手口

誠は言葉巧みに独身女性たちに近づき、心のスキマに入り込んでいく。年齢や性格、容姿など、彼女たちが心に隠し持っている弱みを暴き出し、おおげさに褒めたたえて油断させるのだ。

そして相手が気を許したと見るや、現金が必要であることを匂わせる。すると彼女たちは快くお金を差し出す。ここまで誠は金銭の要求をしていない。「借りる」と言って現金を受け取り、姿を消すのだ。

女性たちは誠に現金を渡すとき、自分を満足させてくれたことに感謝して「あげている」
誠は内心ウシシである。

このようにして、数々の女性から金を集め妻の治療費に充てようとしていたのだが……。

誠の転落

物語のターニングポイントとなるのは「愛の7 志摩美幸(29歳)の場合」だ。
これまで順調に集金していた誠がはじめて失敗する。

美幸から200万をちらつかされ、動揺した誠の目に観音様が映る。観音様は妻・優子に姿を変えてやめるように促す。
誠は我に返り、自分には妻がいることを伝えて美幸の申し出を断る。
その後すぐに美幸は警察に捕まってしまう。間一髪、優子が誠を救ってくれたのだ。

『愛ぬすびと』優子
出典:藤子不二雄A『愛ぬすびと[完全版]』p153(復刊ドットコム)

そこからは踏んだり蹴ったりだ。
騙すつもりが逆に女詐欺師に騙されたり、美人局(つつもたせ)にあったりして大金を失っている。

不倫の末捨てられた女性に同情し、一緒に結婚写真を撮った挙げ句、彼女が死んで写真が新聞に掲載されることになろうとは……。
写真が動かぬ証拠となり、優子の疑念を裏付けてしてしまったのは、痛恨のミスであった。

自分のやってきたことが仇となり、一番大切な妻を失ってしまう。
なんと虚しい結果だろうか。

詐欺でいくらを手にしたか?

愛誠が女性からだまし取ったのはほとんどが現金である。その合計額を見てみたい。

本編に登場する女性たちの被害額の合計は119万円。

(生田薫からもらった金額は不明。またゴルフセットは金額から除外する。)

清水みさお、筒井可憐からは逆に現金をだまし取られている。これが-50万円。

差し引き69万円だ。本編に描かれていない詐欺もあっただろうが、意外に少ない金額ではないだろうか。
ちなみに1973年当時の69万円は現在の価値で言うと、約177万円となる。

優子の手術費用は200万円と言われていた。さらに日々の入院費用も滞りがちとなっている。

誠の月給は20万8千円。賞与の支給も仮定して年収300万とすると、優子の手術代は普通に働いていたのでは到底まかなえない金額だった。誠はどうしても手術を受けさせたかったため、悪事に手を染めることになってしまったのだろう。

結果的には、詐欺が理由で優子を失うこととなり本末転倒となってしまった。

えむ

誠の思い描いた愛とは全く違ったラスト、切ない。

クロジョ

女性の側にも甘い言葉にだまされて大金を渡してしまう弱さがあるのよね。誠はあえて「結婚」という言葉を出していない回も多いしね。この男、憎いわ~~。

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【参考】
・『愛ぬすびと[完全版]』(復刊ドットコム)
昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか? : 日本銀行 Bank of Japan
【初出】
・女性セブン(1973年5月16号~8月8日号)

藤子不二雄A『愛ぬすびと』あらすじ・解説

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