伊藤潤二ファンの筆者が作品のあらすじや登場人物を紹介し、見どころを解説する【伊藤潤二作品・見どころ解説シリーズ】
今回は伊藤潤二先生の作品群でも際立つ美しさと後味の不気味さが同居する『アイスクリーム・バス』を取り上げ、作品の魅力を読み解く。
作品概要・収録単行本情報
『アイスクリーム・バス』は1993年、眠れぬ夜の奇妙な話 VOL.13 春雷之巻(ハロウィン増刊VOL.138)に掲載された短編ホラー漫画だ。つながりのある作品はなく、独立した作品となっている。
作品名(ストアリンク) | 初出 | 収録単行本(入手可能分・ストアリンク) |
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アイスクリーム・バス | 眠れぬ夜の奇妙な話 VOL.13 春雷之巻(ハロウィン増刊VOL.138) | 伊藤潤二傑作集6 路地裏 |
あらすじ
園原は妻と離婚し、男手ひとつで友樹を育てている。
2人が引っ越した団地には毎週土曜日に”アイスクリームバス”がやってきて、子どもたちにアイスを振る舞っていた。最初こそ否定的だった園原は友樹にほだされ、翌土曜日にアイスクリームバスに乗せる。
無料で提供されるアイスクリームを訝しんだ園原が自分もバスに乗せて欲しいと大人はダメだと断られてしまう。仕方なく立ち去ろうとするとバスのなかで巨大なアイスクリームに多くの子どもが群がっている姿を目撃し……。
登場人物
園原
友樹の父。
アイスクリーム売りに存在を怪しく思っている。
友樹
園原の息子。
自分のわがままが通らないと見るや「ママのところに行く」と言って父を困らせる。
美青年
毎週団地にアイスクリームを売りに来る男。
美形で、団地の主婦からは「アイスクリームの素敵なお兄サマ」と呼ばれている。
見どころ解説・考察
ポップさの裏に隠れた『アイスクリーム・バス』不気味なカニバリズム
本作では最終的にアイスクリームバスに乗っていたこどもたちが液状化して、本人たちがアイスクリームになってしまう。自分が食べる側だったのにいつの間にか食べられる側に回ってしまう。
結末を読んでから、もう一度読み返すと子どもたちが喜んで食べているアイスクリームは元々子どもだったかもしれず、バスのなかにあった巨大なアイスクリームは子どもが積み上がったものだったかもしれない。
実際に行われているのは不気味なカニバリズムだと言えるが、その不気味さはアイスクリームのポップさに覆い隠されているのだ。
アイスクリームを売りに来る美青年はその微笑みで子どもの母親たちを虜にし、アイスクリームで子どもを虜にしている。親子ともども表層の魅力に抗えず、美青年の養分回収に協力してしまう。
本作ではアイスクリームと美青年の2つを使って不気味さを覆い隠している。
謎に包まれたアイスクリームバス
アイスクリームバスの存在理由は作中で一切説明されない。
なぜアイスクリームを配り、”新たなアイスクリーム”を作り出しているのか理由は分からず、読者はただただ溶けていく子どもたちを見届けるだけだ。
溶けた子どものなかには”次の材料”になっている者がいるかもしれないが、友樹と友人たちは部屋に放置されたまま。無意味な被害者が多すぎる。
本作はアイスクリームバスの前方が描かれ、「アイスクリーム アイスクリーム」と呼びかけるコマで終わる。動機やからくりを説明せず、謎の包まれたままのエンディングに読者は薄気味悪さを感じ、読後しばらくその余韻が味わえるのだ。
『アイスクリーム・バス』は薄気味悪いホラーが好きな人におすすめの作品だ。
『アイスクリーム・バス』を読むなら
『アイスクリーム・バス』のみ読みたい方は単話のKindle版でがおすすめ。
『アイスクリーム・バス』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集6 路地裏』がおすすめ。
下宿部屋の裏にある不気味な空間に気づいてしまう表題作「路地裏」ほか、伊藤潤二作品屈指の人気キャラクター淵さんが登場する「ファッションモデル」が収録されている。