伊藤潤二作品のなかで、不思議なホラー作品に位置する『潰談』
蜜の魔力と、見つかってしまったら死んでしまうという恐怖。
『潰談』は、人が欲望に抗えない姿を描いた作品だ。
この記事では『潰談』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『潰談』のストーリー【ネタバレ】
尾木は命がけで持ち帰ったという壺を杉男に見せていた。
壺の中には蜜が入っているという。
南米を旅していた尾木は、ジャングルに迷い込み、ある部族の集落にたどり着く。
その部族からは歓迎され、土産に蜜入りの壺をもらった。
蜜は現地特有の植物から採ったもので、彼らは命がけで採取しており、信仰の対象にもしているらしい。
尾木は、蜜のうまさの虜になっていた。
杉男にも蜜を薦めたが、蜜をなめるときは「気づかれないようになめろ」と警告する。
それは現地住民から念を押されていたことだった。
杉男は蜜をなめるとあまりのうまさに興奮し、もっとくれとせがむが、尾木はそれ以上なめさせなかった。
尾木の部屋をあとにした杉男は、コンビニでパンを買い食いするが、パンがまずく感じ、あの蜜のうまさを思い出していた。
数日後、尾木の部屋のドアを叩く杉男たち。
杉男たちは、尾木の反応はないため、開いていた窓から部屋に入る。
壺を見つけた杉男たちは、蜜をなめ、そのうまさに驚いていた。
部屋に漂う悪臭に気がついた有枝が、隣の部屋のドアを開けると、壁一面になにかが潰されたようなが跡あった。
ベリベリとはがれ落ちた物体。
それをまじまじと見ると骨が突き出ていたり、服のようなものも見える。
顔面蒼白になる杉男。その服は、尾木が着ていた服だった。
一同は尾木の部屋を出る。
部屋を出る途中、杉男は部屋に落ちた地図を持ち帰った。
持ち帰った蜜を分け合う杉男たち。
分けられた蜜を早速なめた安ミンが、突然壁に叩きつけられべシャンコになった。
一同は、尾木と安ミンがなぜペシャンコになったのか考えを巡らせる。
リルコは警察を呼ぶというが、面倒を嫌った亀田がリルコをなだめ、一同は部屋を出た。
外で再び蜜をなめた亀田とリルコ。すると今度はリルコがペシャンコになった。
その様子を見ていた杉男は、蜜をなめるとペシャンコになると気がついた。
しかし、リルコと一緒に密をなめていた亀田はペシャンコになっていない。
そして杉男は、尾木が言っていた言葉を思い出す。
「この蜜は気づかれないようになめろ」
もしかすると、蜜をなめたとき、なにかに気づかれなければ大丈夫なのではないか。
亀田は、怯える杉男と有枝に付き合っていられないと言い、その場を去っていった。
数週間後、杉男と有枝はファミレスで食事をしていた。
しかし、あの蜜以外は何を食べてもまずく感じる。
店を出た2人は、リルコや安ミンの潰死がニュースになっていると話していた。
他にも同じようなニュースが流れていたが、その被害者は、亀田の友人ばかりだった。
杉男と有枝の前に姿を見せた亀田。
亀田は、友人たちを使って、なにかに「バレるかバレないか」を試したようだ。
河川敷で蜜の誘惑に耐えていた3人だが、ついに耐えきれなくなった有枝は、蜜をなめてしまう。
それを見た杉男は、ボトルに入った蜜を一気に飲んだ。
すると、ビタンという音とともに杉男はペシャンコされてしまった。
有枝はその時に、杉男を叩き潰すなにかを見た。
錯乱状態になった有枝。
気づかれても叩き潰されない方法があると叫んだ有枝は、川の中に入り、そこで蜜をなめた。
その様子を見ていた亀田が、ふと目線を上げると、巨大ななにかが現れ、有枝をペシャンコにした。
呆気にとられた亀田だったが、杉男が残した財布から地図を見つけていた。
1か月後、亀田は南米のジャングルにいた。
地図を頼りにしてジャングルを彷徨っていると、目の前に気味の悪い植物が見えた。
枝が生き物ののように動き、消えたり現れたりを繰り返している。
枝の先は、まるで手のようだ。
その植物からは蜜と同じ匂いを感じる。蜜はこの植物から取られたものだったのだ。
植物にナイフを入れ、蜜をなめた亀田。その直後、バチンという音が響いた。
『潰談』のおすすめポイント
欲望に抗うことの難しさ
この世界には、いろいろな誘惑がある。
そのなかでも、三大欲求の1つである食欲に抗うのはかなり難しいのではないだろうか。
蜜をなめてからは、他のものがすべてまずく感じるようになってしまう登場人物たち。
どんどん痩せていってしまうのは、空腹なら何を食べてもおいしいという状態ですらない。
それほどまでに、人を魅了してしまう蜜。一体どんな味なのだろうか?
ペシャンコになった人たち
蜜をなめているのがバレると潰されてペチャンコにされてしまう『潰談』
潰された様子が描かれているのは、尾木、安ミン、リルコ、杉男、有枝の5名。
そのなかでも安ミンの潰され方が、特に迫力がある。
部屋の壁一面にバシッ!と描かれた安ミンは、表情の判別ができ、蜜をなめた指までが見て取れる。
このキレイな潰され方も見事で、私が怪談を読む時は、潰された安ミンをまじまじと見てしまう。
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