伊藤潤二作品のあらすじ、登場人物はもとより、原作とアニメの違いや、私が気になるポイントについても深堀りしていく【伊藤潤二徹底考察シリーズ】
この記事では、伊藤潤二作品のなかでも人気のある『なめくじ少女』をピックアップ。
夕子となめくじの関係などを中心に『なめくじ少女』を読み解いていく。
『なめくじ少女』あらすじ
おしゃべりで有名だった夕子が、突然無口になった。
たまにしゃべっても舌たらずな様子で、そのうち学校にこなくなった。
夕子の様子を心配した利恵が夕子の家を訪れると、裏庭で夕子の両親が必死になめくじを退治している。
利恵が夕子の部屋に入ると、マスクをしている夕子に追い出されてしまう。
翌日も夕子の家を訪れた利恵は、そこで夕子の口から「何か」が出ているところを目撃する。
『なめくじ』考察
夕子となめくじ
夕子となめくじの関係は突然始まったものではない。
夕子の家の裏庭には大量のなめくじがいる。両親が躍起になって退治するほどの数だ。
利恵の回想から、小学生時代からすでに裏庭になめくじがいたこと、夕子がなめくじを恐れていたことが分かる。
裏庭にずっと住み着いていたなめくじと、それを嫌悪する夕子はお互いに交わることがないはずだった。
夕子がなめくじ少女になってしまったのは、夕子のなめくじに対する嫌悪こそが原因なのではないか。
一泡吹かせようとしたなめくじは裏庭から夕子の部屋に忍びこみ、夕子の下に住み着いてしまった。
そしてなめくじ少女が誕生したのではないだろうか。
これが夕子嫌悪説だ。
それ以外にも考えられるのはなめくじからの求愛説。
裏庭でいつも待っているなめくじだが、夕子は全然会いに来てくれない。
なめくじは届かない思いをこじらせて、夕子をなめくじにすることで裏庭で一緒に生活ができると考えた。
そして夕子の部屋に忍び込み、夕子をなめくじ化させる。
どちらにしても夕子となめくじのつながりは以前からずっと続いていたものなのだ。
塩風呂
どんどん衰弱していく夕子を見て、両親は浴槽いっぱいに塩を詰めた塩風呂に夕子を入れる。
この時点でなめくじ化していたのは、舌だけだったため、両親は舌のなめくじが退治できると思っただろう。
しかし、実際は体までもがなめくじ化しており、体が大きく縮んでしまった。
夕子の体は人間と同じで変化した様子は見受けられないのだから、両親もこれには驚いた。
なめくじは夕子の体内にも侵食していたが、狡猾にも舌だけがなめくじ化したように見せている。
これは塩風呂に入れば体が縮み、夕子がなめくじ少女として完成することを知っていたなめくじが仕組んだ罠だったのではないだろうか。
実に恐ろしい。
乗っ取られた夕子は何を思う
塩風呂で体が縮んでしまった夕子は、口から出てきたなめくじ本体と夕子の顔が殻になり、かたつむりのような姿に変化。自宅の裏庭に生息することになる。
このシーンで注目するのは、夕子の表情だ。
このとき夕子は何を思っただろうか。
もちろん表情は悲哀に満ちている。そして悲しみのなかに少しの羞耻心も感じる。
人間として生きられなくなってしまった悲しみ、なめくじ少女として人に見られる恥ずかしさが夕子の心の中にあふれているのだろう。
『なめくじ少女』といえばラストシーン、殻の表情なんだよ……
アニメ版『なめくじ少女』
原作との違い
原作では利恵が一度夕子のお見舞いにきて、翌日また訪れたときに夕子の口からなめくじが現れる展開だが、アニメでは利恵がお見舞いにきた初日になめくじと対面していた。
あとはなんと言ってもラストシーン。原作では木の上で悲哀の表情を見せる夕子だが、アニメでは夕子の目のみ。
このシーンは、夕子が裏庭で他のなめくじたちと同じように生きていることを印象づけるに必要なシーンだっただけに引きの絵をカットする必要はなかっただろう。
アニメ版の見どころ
アニメ版ではとにかくなめくじがリアルで、かなり気持ちが悪い。
ビジュアル的な気持ち悪さに夕子役の声優・名塚佳織さんの熱演が重なり、原作ファンも唸る気持ち悪さになっているのだ。
ラストシーンの見せ方には不満が残るが、なめくじの気持ち悪さはよく出来ている。
夕子の口からなめくじが出てくるシーンがアニメで一番の気持ち悪さ
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