新旧のテレビアニメはもちろん、コミックもコンプリートしている私がおすすめのエピソードを深掘りしていく【笑ゥせぇるすまん徹底考察シリーズ】
この記事で紹介するのは、月曜日の憂鬱を題材にした『日曜クラブ』だ。
サラリーマンの楽園・日曜クラブとはなにか、どんなテーマが潜んでいるのかを読み解いていく。
『日曜クラブ』のお客様
- 氏名:内名木 洋介 (うちなき ようすけ)
- 年齢:53歳
- 性別:男性
- 職業:サラリーマン
気が弱く、会社でのストレスに潰されつつある。
喪黒から提供される楽しみが忘れられなくなる定番パターンのお客様。
『日曜クラブ』のあらすじ(原作)
内名木は満員電車の中で喪黒にひどく足を踏まれてしまった。出社前に通りかかった喫茶店の前で喪黒に呼び止められ、さきほどのお詫びにとコーヒーをごちそうしてもらう。
月曜日の出社を苦痛に感じていることを話すと、喪黒から「退行性月曜拒否症候群」ではないかと言われる。「いまのうちに処置しなくては」と勧められ、連れて行かれた場所は会員制の「日曜クラブ」だった。
『日曜クラブ』の見どころ
サラリーマンの楽園「日曜クラブ」
喪黒が案内する会員制クラブ「日曜クラブ」は、なかなか怪しげなところだ。
まず入口が「安全第一」の看板に隠され、工事現場のシャッターをくぐりぬけた奥にある。立地からして普通のクラブではない。
クラブに入るとメンバー共通の奥さん・カズコが「おかえりなさいませ」と出迎え、かいがいしく飲み物などを給仕してくれる。今で言う「メイド喫茶」の先取りだ。
メンバー各々の部屋には日曜気分を味わえる様々なグッズが用意されている。
特筆すべきはテレビだ。内名木が何気なくつけると、ちゃんと日曜の番組を流している。作中ではゴルフ番組が流れていたが、他の局もあるのか気になるところだ。
日曜クラブ最大の謎と言えば、その資金源だ。
立地は街中にあり、カズコを雇用して飲食物の提供もし、風呂を沸かしてくれるなど高級ホテル並みのサービスがある。ここまで至れりつくせりであれば、かなりの費用がかかるだろう。
その資金は喪黒が出しているのか、はたまた日曜クラブ自体がまぼろしなのか。謎はつきない。
お客様とせぇるすまんの駆け引き
喪黒がお客様・内名木を「日曜クラブ」に連れて行くのに、こんなやりとりがあった。
内名木「わたしはこれから会社へ行かねばなりません あなたにつきあっているヒマはないんです!」
喪黒「あなたのことを心配してせっかくいいところへご案内しようと思ったのに…それじゃ さようなら…」
引用:藤子不二雄Ⓐ 笑ゥせぇるすまん2巻 p236『日曜クラブ』(中公文庫)
このシーンこそ、喪黒が人のココロを掌握する名場面だ。
駆け引きを使いこなしてこそ一流の「せぇるすまん」。
たった一度の駆け引きで、内名木がころっとついていってしまうのがなんともおかしい。
テーマ考察
私が考える『日曜クラブ』のテーマは、
「ストレスをうまく解消しろ!」
自分なりのリフレッシュ方法を持つべし
社会生活を送るうえで、ストレスがない人はいない。
ところどころで力を抜くのもいい。休日は趣味に没頭するでもいい。適度にストレスを解消し、リフレッシュする時間がなければ人は潰れてしまうだろう。
結果として潰れてしまったのが、本作のお客様・内名木だ。適度にリフレッシュするのではなく、ストレスフルな日常から完全に逃れようとして、彼岸の世界に旅立ってしまった。
すべてのストレスからは逃げられない
内名木は「月曜拒否症候群」、今でいう「サザエさん症候群」である。
喪黒は、内名木に対し月に1回の日曜クラブ通いを認めている。それ以上は社会生活に戻れなくなることを見越して禁じていた。にもかかわらず内名木は2日連続で行ってしまい、見事に生活が破綻してしまう。
すべてのストレスから逃げることなどできないのだ。
藤子不二雄A先生からのメッセージとは?
『日曜クラブ』で藤子不二雄A先生が伝えたかったメッセージは、結末の喪黒のセリフに集約されている。
「多少のストレスは人生の調味料です ストレスを全く無くそうとするよりストレスのいい解消法を見つけて下さいな」
引用:藤子不二雄Ⓐ 笑ゥせぇるすまん2巻 p246『日曜クラブ』(中公文庫)
A先生は多忙のなかで、ゴルフを楽しんだりパーティーに参加したりと人生をエンジョイしている。締め切りに追われるストレスは相当のはずだが、仕事をキッチリこなしつつ、遊びも手を抜かない。
人生をめいっぱい楽しむことが長生きの秘訣なのだろう。
『日曜クラブ』新旧アニメ版レビュー
初代アニメ版『日曜クラブ』
原作からの変更点
アニメ版で変更された重要な部分を指摘したい。
まず喪黒とお客様との駆け引きのシーンがカットされている。ここは名場面として残して欲しかったところだ。
日曜クラブへの道順にも違いがある。原作では「安全第一」のついたてを抜けた後すぐに入口にたどり着くが、アニメ版ではハードな道のりとなっている。そのあとのリラックスしたシーンとの差を印象づけるためだろう。
クライマックスで、内名木が「日曜クラブに入りたい」と懇願し土下座するシーンはアニメ版のオリジナルだ。追い詰められた者の必死さが伝わってくる。
初代アニメ版の見どころ
アニメの結末。内名木が日曜クラブのドアを開けると、それまでかかっていたBGMがピタリと止まり、喪黒の顔がアップで映し出される。
にぎやかな音楽から一転、緊張に変わる演出が素晴らしく、見ている者に内名木と同じ驚きを与える。
途中のシーンでは、お茶目な喪黒が見られるのもアニメ版の良いところだ。
先ほど原作との変更点として挙げた日曜クラブへの道のり。ここがコミカルで面白い。
ショベルカーのレバーを自ら操作して、上がっていくショベルに軽やかに飛び移る。このときの、ジャンプする喪黒がカワイイ。
その後橋のように一本かかった鉄骨の上を渡る場面では、内名木が猫背になってこわごわ進んでいくのに対し、喪黒がズンズン胸を張って歩いていくのに頼もしさを感じる。喪黒好きにはたまらないポイントだ。
NEWアニメ版『日曜クラブ』
原作・初代アニメからの変更点
時勢に合わせてアップデートされている点がある。
例えば、内名木が無断欠勤を妻に問いつめられたところで、言い訳に使っている場所が初代では映画館、NEWではマンガ喫茶となっている。
昔は映画館が入れ替え制ではなかったので、サラリーマンのサボリスポットして活用されていたが、現在はそうではないため、マンガ喫茶に変更されている。
原作アニメの見どころとしていたショベルカーのくだりがカットされていたのが、個人的には残念だ。
大きな違いは、内名木が喪黒との約束を破るまでの過程。
初代アニメでは上司に怒られ、満員電車のなかで心が折れてしまう。
一方、NEWアニメでは上司に怒られ、妻や子どもには冷たくあしらわれ、通勤電車では若者とトラブルになってボコボコにされるまで段階を踏んでいる。
NEWアニメ版の見どころ
喪黒が「月に1回までですよ」と忠告するシーンが面白い。サイケデリックな色合いでグニャグニャしながら喪黒の顔が完成する表現がよかった。
オチは原作・新旧アニメ共通である。ただしNEWアニメでは、喪黒が「ドーン!」する前のところで、内名木に手を握られて「イヤ~ン」と頬を赤らめるギャグが挿入されている。
全体としてNEWアニメはところどころ演出が過剰で私にはクドく感じられる。新しい読者には、ぜひ初代アニメ版も合わせて見ることをおすすめしたい。
『日曜クラブ』が収録された単行本
初代アニメ版『日曜クラブ』