『青空の悪魔円盤』は呪みちる先生初の作品集だ。
怪奇で耽美な呪作品が単行本としてまとまり、多くの人に読まれることになった記念的な作品集は現在手に入りにくい状況になっている。
この記事では全8話のあらすじと感想を紹介し、手に入れられなかった方にも作品の素晴らしさを共有させて頂きたい。
収録作品のあらすじ《結末ネタバレなし》
人造人間の怪
大学講師のヨシ子は、教え子の犬神満月から一緒に人造人間を作らないか?と持ちかけられた。
満月の悪魔的才能によって、人造人間の「玉男」が誕生したが、脳と生殖器だけはどうしても完成させられなかった。
満月が「玉男」を放棄した後、ヨシ子が献身的に面倒を見た。すると心を持たないはずの「玉男」に意識が芽生えた。
満月はその様子を見て、好奇心から「玉男」の解剖を行うと言い出した。ヨシ子はそれに反対し、言い争いになったところで玉男が満月を殺した。
殺しの快楽を覚えた「玉男」とヨシ子の逃亡生活が始まった。
変化の神秘
さち子の姉(満月?)は美人で聡明だが、神を恐れぬ邪悪な心の持ち主だった。医学部に入る前から人体実験をし、いつか人造人間を作るという野望を持っていた。
ある日姉妹で海に行った帰り道、二人はバイクで老婆をはねてしまう。
姉の指図によって死体をシートに包み林に隠したが、しばらくして見に行くと、老婆は若い女の姿に変わっていた。
これこそ神が起こした奇跡だと、さち子は主張したが……。
時計屋敷の少女
えり子のクラスに転校してきた少女カナレは人間離れした美貌の持ち主だった。
カナレの父は時計職人で家には多くの自動人形があった。家に遊びに行ったえり子は感心しながらも少し恐れを感じる。
病気のため給食が食べられないカナレはいじめっ子たちに責められ、無理に給食を口にすると、真っ黒なものを吐いて倒れた。
いじめはさらにエスカレートし、えり子とカナレはプールに投げ込まれてしまう。沈んだままのカナレの体から、黒い油が流れ出していた。
それを見たリーダー格の少女は、カナレは人間ではない!と言い始める。
呪いのグレート・ハンティング
転校生の津島は美人の上に成績優秀、運動神経も抜群ですぐに人気を集めた。
そんな津島の秘密を知るかのように、花房という少女が近づき、「あなたは転生の狩人。私達のために本能を開放してほしい」と誘う。
津島は人がムクドリのように見える幻覚に苦しめられた。
花房に連れられ、ある団地の部屋に入ると、そこには花房を同じ顔の女たちが待ち構え、津島は救世主として迎え入れられた。
集合時間は午前二時
よし子は夜、自転車で臨海学校の集合場所へと向かっていた。
街灯もない真っ暗な道におばけが現れ、驚いたよし子は転倒してしまう。
胸騒ぎがして家に引き返そうとしたところ、エーブや他のクラスメートたちがやってきて、共に集合場所へと向かった。
ところが忘れ物に気がつき、よし子が取りに帰ろうとすると、エーブやクラスメートが強引に引き止め、出発しようとする。
空には銀色に輝く巨大飛行船が現れた。「あれに乗って行くのよ」と言われて、よし子がタラップに踏み出したとき、再び黒いおばけが現れた。
「行くな!」と引っ張られ、よし子はやっと正気に戻った。そのおばけの正体とは……。
タイル
警備会社の無線係・加古には人には言えない秘密があった。
学生アルバイトとして入社した森は加古に興味を持ち、近づく。
加古が森を自宅に引き入れ関係を結ぶと、森は豹変した。森は加古を2年前の強盗の犯人と思い込み、宝石の在り処を言うようにナイフを突きつけて脅した。
一方の加古もサディスティックな本性をあらわし、逆襲に転じる。
侏儒-リューゲル
みどりは幼い頃から木や人形と話ができる少女だった。
みどりの父は躾と称し、みどりを怪しげなガラクタが詰まった屋根裏部屋に閉じ込めた。
そこで、みどりは小さな悪魔のリューゲルと出会う。「おれの言うことを聞くなら悪魔の力を貸してやろう。その気になったらこい」とリューゲルは言った。
16歳になったみどりは屋根裏部屋でリューゲルと再会する。
指示されたとおり、硫酸でリューゲルを洗って垢を落とし、内臓を1つずつ外し丹念に磨いた。
半年かけてすべての作業を終えたみどりは、悪魔の力を手に入れ、自分を支配する父親を殺した。
青空の悪魔円盤
山田はUFOを見るようになった。友人たちには見えず、誰も信じないので1人でコツコツと記録していた。
ある日、クラスメイトの黒野が山田に近づき、テレパシーを使ってUFOと交信しようと誘ってくる。
日を追うごとにUFOは数を増やしながらドンドン地上に接近してきた。
山田は悪夢にうなされ、激しい頭痛に苦しめられた。黒野は星型の傷ができた。
山田は宇宙人の狙いが人間の脳だと気がつき、必死にUFOの危険を訴え始めたが……。
【ネタバレ】感想・考察
呪みちる作品集『青空の悪魔円盤』の初出は3つの雑誌に分かれている。
- レディコミの「恐怖の快楽」(ぶんか社)収録作はエロティックサスペンス。
- 「恐怖の館DX」(リイド社)は呪先生独自のホラー。
- 「ホラーウーピー」(リイド社)はUFO系サスペンス。
未確認飛行物体モノの面白さ
私が特に好きなのは「ホラーウーピー」で発表された「集合時間は午前二時」だ。
海外で話題になったエイリアンによるアブダクション(誘拐)事件と日本のお化け・幽霊を融合したテーマが面白い。
謎が謎のままにされることで、読後も恐怖が続くようなラストシーンになっているのも私が好きなポイントだ。
UFOといえば、円盤型の飛行物体が思い浮かべるが、作中に登場する巨大な飛行船は1890年代にアメリカで目撃されたという「謎の飛行船」をモチーフとしているように思う。
呪先生はUFOや宇宙人にも造詣が深く、以前のトークイベントでの宇宙人トークも面白かった。
同じく「ホラーウーピー」掲載の「青空の悪魔円盤」のラストには驚いた。
なぜ山田にだけUFOが見えていたのかという理由が意外だった。
一読してから読み直すと、だからUFOがこの形だったのか!あのコマは伏線か!とさらに面白さが増す。
美少女の魅力
呪先生が描く少女の美しさも魅力のひとつだ。
呪みちる先生はデビューからしばらくは別ジャンルの漫画を描いていた。
ホラー漫画に転向後、初の作品が「時計屋敷の少女」だった。
作中に登場するカナレは金髪で大きな目が印象的な美少女であり、影がある雰囲気が魅力だ。
お茶を運んできた自動人形のかわいさも印象に残る。
「時計屋敷の少女」にはシリーズ化の構想があり、この後に描かれた「カナレとジュラ」ではカナレの生い立ちにスポットが当たっている。
残念ながら現時点では単行本未収録だが、呪先生制作の同人誌にて読める。
この後に構想があったというカナレの逆襲篇をぜひ、読んでみたい。
設定資料が面白い
この作品集には呪先生がノートに書いていた資料・ネタが収められている。
後発の初期傑作集には含まれていないので、貴重な資料だ。
- 「青空の悪魔円盤」で少ししかしゃべらない毛受(めんじょう)くんの設定
- 「時計屋敷の少女」の猫 ロボット
- 「変化の神秘」で轢かれてしまうおばあちゃんの轢かれるパターン
素晴らしい作品にするために少ししか登場しないキャラクターでも、呪先生が様々なアイディアを出していたのが分かる。
その試行錯誤の様子を覗き見できるのがうれしい。
他の単行本と重複する作品まとめ
呪みちる作品集『青空の悪魔円盤』は出版元のソフトマジックも倒産し、現在入手困難となっている。
収録作の多くは後発の呪みちる初期傑作集I「人造人間の怪」に収録されているが、一部は再収録なし、一部は他の単行本に収録されている。
単行本への収録状況は下記のとおりだ。
- 「人造人間の怪」
- 「変化の神秘」
- 「時計屋敷の少女」
- 「集合時間は午前二時」
- 「侏儒-リューゲル」
- 「青空の悪魔円盤」
- 「呪いのグレート・ハンティング」
- 「タイル」