伊藤潤二作品のなかでも、私が大好きな作品である『あやつり屋敷』
私もおすすめの作品として伊藤潤二傑作選のおすすめ漫画10選で取り上げている。
人形劇を行う旅一座が人形に翻弄されていく様を、奇妙なエッセンスを存分に入れ込んだ名作だ。
この記事では『あやつり屋敷』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『あやつり屋敷』の人物相関図
あやつり屋敷の主人公・北脇治彦を中心として物語は進行する。
北脇家は母がいないため、父と子供3人の家族だ。
兄・雪彦が家出し、父が亡くなったあとは、治彦が働き、夏美と2人で生活し、再会した絹子も含めて暮らす。
ここに物語の主軸となるジャン・ピェールも絡んでくる。
『あやつり屋敷』のストーリー【ネタバレ】
北脇治彦は人形劇の旅興行をしている一家の次男として生きていた。
一家は父を座長として、治彦とその兄(雪彦)、妹(夏美)が座員として人形劇をしていた。
母は逃げてしまい、行方が知れない。
新しい学校で転校生として、教師に紹介された治彦。
クラスメイトの日高絹子は治彦に興味が湧いた。
「人形劇なんて夢がある。治彦も人形をあやつってるの?」と聞く絹子。
治彦は「人形劇なんて好きじゃない。人形がうまくあやつれない」と答える。
絹子は俄然治彦に興味があるようで、治彦の住むトラックに行きたいといい、治彦も了承する。
トラックのなかにある大量の人形に喜ぶ絹子だったが、気持ち悪い人形を見つける。
それはジャン・ピェールという魔法使いの人形で、雪彦のお気に入りだと説明する治彦。
その後、他の人形を見ている絹子を驚かそうと思った治彦はジャン・ピェールを絹子の顔に近づける。
驚いた絹子は、ジャン・ピェールを手ではねのけてしまう。
謝る治彦と怒る絹子の近くで、ジャン・ピェールは何か意思を持つように床に伏していた。
興行が終わった治彦一家は次の町へと旅立った。
その道中、絹子のことで治彦をちゃかす雪彦。
雪彦もこの生活に虚しさを感じているようで、父が病気にでもなればこんな生活も終わると口走ってしまう。
まもなく、父が病気で倒れた。ボロアパートで暮らし始めた一家。病に伏す父は人形を手に取り、子どもたちに話し始める。
人形は我々の心を表現する道具に過ぎない。人形は我々のいいなりだと。
その夜、雪彦は治彦に言った。
父は人が人形をあやつっていると言ってたが、あやつられているのは人のほうで、父は人形にあやつられていると。
人形に働かされるのはごめんだと言った雪彦は翌朝、家を出ていった。
それから半年後、父は亡くなった。
その後、親戚のところで世話になっていた治彦と夏美は、治彦の中学卒業とともに親戚の家を離れ、2人で暮らし始めていた。
ある日、治彦は絹子とばったり再会する。徐々に関係を深めていく治彦と絹子だったが、そこに雪彦から手紙が届く。
雪彦からの手紙を受けた治彦は夏美と一緒に雪彦の家を訪れた。
玄関を入ると、出迎えてくれたのはジャン・ピェール。その後ろから雪彦とその家族が現れた。全員が糸に吊られながら。
ジャン・ピェールを持って家を出た雪彦は、大道芸人の真似事をしながら金を稼ぎ、今では会社の社長にまで成り上がったそうだ。その運はジャン・ピェールが運んでくれたものだという。
目の前に運ばれてくる豪華料理に喉を鳴らす、治彦と夏美。
雪彦が使用人に音楽を頼むとあやつられたバレリーナが音楽に合わせて踊りだした。
この状況を疑問に思った治彦は、雪彦に天井からつるされているのかと聞く。
雪彦は家族が1日中ピアノ線で吊られていて、使用人4,5人で1人をあやつっていると答える。
指以外の力を抜いている雪彦は不自由なく動いていた。
兄は言う「遣い手は人形にあやつられている」と。
それからもたびたび兄の家を訪れていた治彦と夏美。
夏美はバレエを踊りたいと言い出し、あやつられることになった。治彦もあやつられてみないかと誘われたが、拒否する。
雪彦がずっとあやつられていることで、筋力が落ちるんのではないかと心配する治彦だったが、そんな心配はないと断言する雪彦。
そうこうしているうちに夏美が吊るされた状態で戻ってきた。
吊るされて踊り始めた夏美を見て、怒った治彦は帰ると言ったものの、夏美はここで暮らすという。
治彦も一緒に暮らさないかと雪彦聞かれたが、治彦は断った。
治彦の態度がつれないと不安になった絹子は、治彦の浮気を疑うが、雪彦一家を紹介する気になれなかった治彦ははぐらかすしかなかった。
またも雪彦宅を訪れていた治彦。
皆でテーブルを囲んでいるところ、治彦はバレリーナ嬢たちに連れられて、別室に移動させれてしまう。
バレリーナたちは治彦にあやつられるように進めていたが、治彦はそれを断った。
その様子を外から見ていた絹子に見られてしまう。
憤った絹子は雪彦宅の玄関を開ける。そこにはジャン・ピェールがいた。絹子と目が合うジャン・ピェール。
その刹那。治彦の前にいたバレリーナたちが暴れだした。
雪彦がいる部屋に戻った治彦は、身動きが取れなくなった家族を目撃する。
心が乱れているとジャン・ピェールを呼ぶ雪彦。ジャン・ピェールはドアの影からこっそりこちらを覗いていた。
屋根裏の使用人たちにやめるよう叫んだ治彦は、強引に屋根裏に上がった。そこにはうつろな目で家族をあやつる使用人たちがいた。
屋根裏から落とされてしまった治彦は、ドアの影からこちらを見ているジャン・ピェールに気がついた。
逃げるジャン・ピェールを追う治彦。行き止まりまで追いかけた治彦の前には、変わり果てた絹子がいた。
なぜ絹子がと困惑する治彦にジャン・ピェールが襲いかかってくる。
治彦はケガをしながらも、ジャン・ピェールを破壊した。
その後、夏美の声が聞こえ、部屋に戻った治彦は夏美を助ける。ふと上を見上げると使用人たちが倒れてた。
この屋敷はジャン・ピェールの魔術によってあやつられいたのではないかと考えた治彦。
雪彦も助けようとした治彦だったが、雪彦と家族は人形に変貌していた。
人形になってしまったのか、最初から人形だったのか治彦には分からなかった。
『あやつり屋敷』の見どころ・おすすめポイント
ジャン・ピェール
『あやつり屋敷』の本当の主役と言っても良いジャン・ピェール。その奇妙な見た目に私は虜になってしまいました。
作品の冒頭で絹子にひどい扱いを受けたジャン・ピェールが長年の恨みを晴らすシーンでは、ジャン・ピェールの執念を感じる。
最後に治彦が「この屋敷はジャン・ピェールの魔術であやつられていた」というところがある、私は屋敷どころか、家族、恋人までもあやつっていたのではないかと思う。
あくまで終着点が屋敷だったというだけで、床に落ちたジャン・ピェールは、その時点で壮大な復讐を考えていた。
そう考えると父の病死も、兄の家出も、絹子と治彦の再会までもあやつっていた、なんともおぞましい人形!
そんなおぞましいジャン・ピェールの活躍が楽しめるのが『あやつり屋敷』だ。
ジャン・ピェールのフィギュア発売してほしい
糸であやつられる人々
ジャン・ピェールへの愛が強すぎる私だが、もう1つのおすすめポイントは、糸であやつられてしまう家族だ。
誰しも楽をしたいと思ってしまうものだが、あやつられて生活するというのはその理想形の一部ではないだろうか?
自分の思った通りの行動を勝手にできるのであれば、そんな楽なことはない。
その緩慢さを戒める作品でもある。
バレリーナ嬢たちがかわいい
私が正気を失っているのかもしれませんが、治彦を誘惑するバレリーナたちがかわいい。
全員でテーブルを囲んでいるときは、積極的に治彦の肩に腕をのせたりするのに、いざバレリーナたちと治彦が別室に入ると、腕輪を持って、こちらどうですか?とソフトに進めてくる。なんともいじらしい。
治彦も「断るよ」なんて言いながら、バレリーナの鼻をツンツンしちゃうもんだから、ここだけ切り取ればラブコメだ。絹子が勘違いするのも無理はない。
ジャン・ピェールによってコントロールを失ったときの豹変ぶりが怖いのもまた一興だ。
『あやつり屋敷』は人形が巻き起こす不思議なホラーが好きな方におすすめ
『あやつり屋敷』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『あやつり屋敷』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集8 うめく排水管』
名作『首吊り気球』気持ち悪すぎる『うめく排水管』も収録されている。