伊藤潤二『道のない街』ストーリー・解説・おすすめポイント【ネタバレあり】

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『道のない街』アイキャッチ

伊藤潤二作品のなかでも、私の大好きな作品である『道のない街』

彩子が叔母さんの家を訪れるため「道のない街」に入り、翻弄されてしまうホラーストーリーだ。

この記事は『道のない街』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。

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注意
この記事にはネタバレを含む。
また、生理的に不快な表現があるため、ご注意願いたい。

目次(読みたいところをタップ)

『道のない街』のストーリー【ネタバレ】

去年の夏、彩子は岸本くんの夢をよく見るようになった。
内気でパッとしない岸本くんとは話したこともなく、彩子は気にもとめていなかったのに。

彩子は岸本くんを好きになってしまったと、友人の久美に相談する。
久美はそれが、アリストテレスなのではないかと言った。

アリストテレスはギリシャの哲学者だが、久美は好きな異性を振り向かせる方法をアリストテレスと呼んでいるらしい。

その方法は、好きな人が眠っている耳元でいろいろと話かける。そうすると眠っている人はその声の主の夢を見るということだ。

久美は岸本くんが夜な夜な彩子にアリストテレスを仕掛けているのでないかと予想していた。

家族で食卓を囲んでいた彩子は兄弟から部屋で男の声がすると指摘される。
その場では否定したが、アリストテレスのこともあり、気になる彩子。

夜に岸本くんの夢をみた彩子は、夢の中でこれがアリストテレスだと岸本くんに指摘し、夢ではなく直接言うように諭す。

そんな様子を伺っていた怪しげな男。男は切り裂きジャックと名乗り、岸本くんをナイフで殺してしまう。

飛び起きた彩子の横には、夢の中で岸本くんが渡そうとしていた指輪の箱が落ちていた。
そして近くの路上で岸本くんが変わり果てた姿で見つかったのだった。

数ヶ月後、久美の部屋にいる彩子。
自分の家族を嫌がり、久美の部屋に泊めてもらっていたが、久美も限界を迎え追い出されてしまう。

トボトボと家に帰った彩子を叱る家族。
彩子は家族に覗きをやめるように訴えるが、家族はそんなことはしていないと否定する。

彩子が自分の部屋に戻ると、壁には穴が空いており、彩子はその穴をふさいでいた。
またすぐに穴が空き、穴から出てきた指を叩いた彩子。指の主は兄のようで痛がるような声をあげた。

ドアの隙間からは両親が彩子を見ている。タンスには弟が隠れていたが、彩子が見つけて部屋から追い出した。

深夜、彩子が寝ていると天井裏から音がした。天井に空いた穴を突いてみると悲鳴が聞こえる。
翌朝、父は眼帯をしながら食事をとっていた。

彩子は玉枝叔母さんのところに身を寄せることを決心し、家出した。

叔母さんの家の最寄駅まできた彩子だが、叔母さんの家に向かうバスは走っておらず、タクシーも走れなくなっているそうだ。仕方なく歩いて向かう彩子。

行く先々が行き止まりだったため、大通りを目指す。その道中には仮面を売っている店があった。

その店を抜け、大通りに出ると仮面をつけた人々が行き交っており、大通りは建物で遮断されている。

通行人に道を聞くと、あの中のどこかにあると言われてしまう。
困っていた彩子に仮面をつけた男が声をかけた。仮面の男は彩子を案内してくれるらしい。

他人の家に土足でズカズカと上がり、そして出ていく仮面の男。

この街では、ひと月のうちに建築物が続々と建ち、道がふさがれてしまったため、みんな他人の家を通過するらしい。

歩いている途中に、人だかりがある場所に出くわした2人。その家の住人が玄関を閉ざしており、通行できないためだった。

結局、玄関は強引に開けられてしまい、住人は縛られ、袋叩きにされてしまう。
怖くなった彩子はその場から逃げ出したが、しばらく経って戻ってきた。そして縛られた住人を助け、話を聞く。

この辺りの住人が苛立っているのは、プライバシーが守られないせいではないか。

常に自分の家を他人が行き来するため、プライベートな空間がなく、せめてものプライバシー保護で仮面をつけているが、根本的な解決になっていないということだった。

叔母さんの家に向かうルートを聞いた彩子に、あの辺りは危ないと忠告する住人。
奇妙な連中がおり、切り裂き魔が横行する場所なのだという。

なおさら行かなくてはと立ち上がった彩子は住人のアドバイスを受け、仮面をつけて叔母さんの家に向かう。

道には怪しげな人々がいたが、なんとか叔母の家にたどり着く。ドアを開けると裸になった叔母さんが出迎えてくれた。

叔母さんはプライバシーのない環境にいることで、プライバシーを捨ててしまい裸で生活することを選んだ。
彩子にもプライバシーを捨てるように進言する叔母さん。

それを拒否した彩子だったが、叔母さんはさらに強い口調でプライバシーを捨てるように言い出し、りんごを剥いていたナイフを彩子に向けた。恐怖を感じた彩子は逃げ出す。

やみくもに走った彩子は、その途中で切り裂き魔の餌食になった亡骸を発見する。
そして壁越しに何かを覗いていた頭が長く目がいっぱいついたバケモノを見つけ、必死で逃げたのだった。

彩子は逃げた先で、先ほど途中まで道案内してくれていた仮面の男に出会い、出口を教えてくれるように頼む。
そして仮面の男のあとをついていく。

歩いている途中、仮面の男が指輪をしていることに気がついた彩子。その指輪は岸本くんが夢で彩子に渡そうとしていた指輪だった。

「私を覚えていませんか?」と聞く仮面の男。
男が仮面を外すと、そこにいたのは夢の中にいた切り裂きジャックだった。

男の話によると、男は彩子の家に忍び込んだが、先に岸本くんがいたため、岸本くんを殺したのだという。
男がナイフを取り出し、彩子に襲いかかろうとしたその時。

叔母さんが後ろから男を刺し、彩子を助けてくれた。
そして、上流を目指して歩くと街を出られると伝え、その場を去った。

彩子は上流を目指して歩き始めた。

『道のない街』のおすすめポイント

プライバシーのない世界

彩子は叔母さんの家を目指して「道のない街」に来たが、大量の建築物によって道がふさがれてしまい、民家の中を歩くことになる。

常にドアが開いていて、1階でも2階でも他人が自由に出入りしてくる環境なんて私には耐えらない。
それに限界を感じて玄関を閉ざしてしまった人の気持ちも理解できる。

プライバシー無視が行き過ぎた結果、裸で生活し始めてしまった玉枝叔母さんはその究極の形で、我慢が爆発してしまったのだろう。
こんな街に住むことになったらと考えただけで、恐ろしい。

街の造形

建築物にまた別の建築物を重ねて、どんどんおおきな集合体になっていくのは九龍城のよう。
その建物も美しい。

整然と建てられてものではないが、その異質さがかえって良さを引き出している。

道路に突然出現する家、家の壁の数cm前に立つ道路標識など、いかにこの街が異質な存在なのかを教えてくれる。
伊藤潤二先生ならではの異質な描写ではないだろうか?

えむ

あとを引くようなホラーが好きな方におすすめ

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【参考】
・伊藤潤二傑作集6『路地裏』p255-324「道のない街」

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