『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』あらすじ・感想

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『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』あらすじ・感想

2019年2月、『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』が発売された。

小学館、ビッグコミックスピリッツ等で発表された漫画を中心に、カラー作品を多数収録した豪華作品集だ。単行未収録の5作を含む計10作が収録されている。

この記事では全10話のあらすじと感想を紹介する。

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目次(読みたいところをタップ)

収録作品のあらすじ《ネタバレなし》

「億万ぼっち」

公園の池で男女の遺体が見つかった。2人の体は糸のようなもので縫い付けられており、世間は騒然となった。この事件を皮切りに、全国では続々と縫い付けられ合体された人々の集合体が見つかった。

インターネットの掲示板では「人の集まる場所が危ない」とささやかれ始めた……。

「人間椅子」 原作:江戸川乱歩

女流作家の葉山は旅先で家具工房を見つける。葉山はそこで仕事で使う椅子の製作を依頼した。
店主は「椅子によっては人生が変わる」と言い、奥にある椅子を見せながら奇妙な話をしはじめた。

大正時代の女流作家・戸川圭子の「人間椅子」にまつわる話である。

「盲点のビーナス」

毬子は父とともにUFO研究会を主催していた。研究会のメンバーはUFOよりむしろ毬子の美貌に魅了されており、それに気がついた父が研究会を解散させようとする。
しかし、UFOへの情熱が冷めない毬子は応じない。

その頃からメンバーたちの視界から毬子が消えるようになった。遠くからは姿を見られるが、近くになると途端に見えなくなるのだ。

伊藤潤二『盲点のビーナス』
出典:伊藤潤二『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』p82「盲点のビーナス」(小学館)

「舐め女」

夜の街に、通りすがりに人の体を舐める通り魔「舐め女」が現れる。舐め女の唾液には毒が含まれており、舐められた人は死んでしまった。

舐め女に婚約者を殺された美来(みく)は自警団に入り、女を探していた。

「楳図先生と私」(うめずせんせいとわたし)

伊藤潤二は幼い頃、楳図かずお作品の虜だった。『ミイラ先生』から始まり、『赤んぼ少女』『おろち』などの名作に傾倒していた。

大人になって漫画家として成功した頃、楳図かずお製作の映画『マザー』漫画化の依頼がくる。

「この世のほかの恋」 原作:江戸川乱歩

京子は変人と噂される門田と結婚した。一緒に暮らしてみると周囲の評判と違い、優しい男だった。しかし「愛してる」の言葉はどうも事務的に感じられた。

深夜、寝床を抜け出し土蔵に入る門田についていくと、逢瀬のささやきが聞こえた。

「魅入られた切田教授」 原作:ロバート・ヒチェンズ

女流作家の葉山は実家の物置で、ある手記を発見する。それは純文学の大家である切田教授の弟子・スミ子が書いた日記であった。

その中には切田教授とスミ子、牧師のマーチソン教授に起こった奇妙な出来事について書かれていた。

「阿彌殻断層の怪」(あみがらだんそうのかい)

大脇は地震で山の斜面に出来た断層を見るため、阿彌殻(あみがら)岳に来た。断層には人の形をした穴が大量に発見されていた。

道中で出会った女性・吉田は、自分と同じ形の穴を探しに来たのだという。

伊藤潤二『阿彌殻断層の怪』
出典:伊藤潤二『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』p223「阿彌殻断層の怪」(小学館)

「大黒柱悲話」(だいこくばしらひわ)

家族が集って新居の新築パーティーをしていると、床下から父の声が聞こえた。
一家が床下を見に行くと、大黒柱の下敷きになっている父を発見した。

「忘れ形見」

豊司(とよじ)の家で、死んだはずの前妻の亡骸から赤ん坊が生まれた。
すでに再婚していた豊司は赤ん坊に万十郎(まんじゅうろう)と名付け、養育を女中のお種に任せる。

後妻が継子の万十郎をいじめるので、怒ったお種は、万十郎の出生に関わる秘密を暴露した。

ビジュアルの美しさ

大判で絵の緻密さを堪能

私は漫画をできるだけ大判で読みたいと思っている。特に潤二先生の作品なら、なおさらだ。
小さいサイズだと線が潰れてしまったり、細かい筆致が印刷に出ないので物足りないのだ。

この『BEST OF BEST』は縦15.8cm×横8.5cmもの大判サイズ(青年コミックの2倍!)で伊藤潤二先生の絵を堪能できる。これはたまらない!

伊藤潤二短編集BEST OF BEST サイズ比較
青年コミックサイズの『人間失格』大判の「うずまき」よりさらに大きい

豊富なカラーページ

イラストギャラリー

  • Frankenstein in Innsmouth(インマウス村のフランケンシュタイン)…映画監督のルッジェーロ・デオダートら3人とのトーク・セッションを経て着想したイラストレーション作品
  • 桐絵…『うずまき』の主人公
  • 人間失格の女たち…『人間失格』に登場する4人の女性たちの全身像を描いた作品
  • うずまき…『うずまき』の表紙イラストより
  • 人間失格…『人間失格』の表紙イラストより

カラー漫画紹介

  • 「億万ぼっち」…巻頭カラー
  • 「盲点のビーナス」…一部カラー
  • 「舐め女」…巻頭カラー
  • 「阿彌殻断層の怪」…巻頭カラー
  • 「大黒柱悲話」…全編カラー
  • 「忘れ形見」…巻頭カラー

私が驚いたのは「舐め女」巻頭の登場シーン。エメラルドグリーンを効果的に使用し、夜の街に吹く生暖かく湿った風を表現している。ふきだしに地色を透過させるなどの演出も変わっていて、おもしろかった。

女のグロテスクな舌もカラーで描かれることによって気持ち悪さが増している。

伊藤潤二『舐め女』
出典:伊藤潤二『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』p109「舐め女」(小学館)

カバーをめくると、本体の表紙に「大黒柱悲話」からのワンカットが見られる。

【ネタバレ注意】
ここから先は作品の結末に言及している。未見の方はご注意願う。

【ネタバレ】感想

どの作品も大好きなのだが、特にお気に入りの作品の感想を紹介したい。

億万ぼっち

ジャンルとしては怪奇ミステリーになるだろうか。

縫い付けられ合体された人の集合体が登場するシーンはショッキングだ。
最初は2人だったものが、徐々に人数が増えていき、さまざまな集合体が広場を支配するシーンは圧巻だ。

大きなクリスマスツリーをぐるりと囲む人体や、鉄鍋餃子のようになった人体。組体操のようになっている人体。ビルの窓から吊り下がる人体などとにかく埋め尽くされている。

この様子はぜひ単行本で確かめて欲しい。

成人式で大量に人が消えてしまい、物語も終わったかと思わせておいて、もう一捻りあるところも好きだ。

超常現象だと思って読んでいたものが、ラストで突然サイコホラーに変わるところが二段構えのオチになっており、楽しませてくれる。

人間椅子

江戸川乱歩の短編小説に対し、伊藤潤二先生は新たなエッセンスを加えアレンジしている。

たとえば原作のラストシーンでは調べずに終わった椅子の内部について。人の型にかたどられ、飲食物の残骸が散らばった内部はリアルで生活感があり、生理的な気持ち悪さを感じさせる。
(原作で示唆されているだけで見ずに終わったところを、実際に絵に描き起こしているのがおもしろい。)

戸川佳子が失踪した後人間椅子男と良い仲になり、2人で椅子に入って子どもまでなすというのが、伊藤先生の加えた超展開だ。

原作を知る人も、また知らない人も、あっと驚き楽しめる作品であると思う。

伊藤潤二『人間椅子』
出典:伊藤潤二『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』p58「人間椅子」(小学館)

単行本未収録作品は5作

今回が初収録

  • 「人間椅子」
  • 「楳図先生と私」
  • 「この世のほかの恋」
  • 「魅入られた切田教授」
  • 「忘れ形見」

再録作品

  • 「億万ぼっち」→『地獄星レミナ』収録
  • 「盲点のビーナス」→『天才たちの競演』収録
  • 「舐め女」→『ブラックパラドクス』収録
  • 「阿彌殻断層の怪」→『ギョ』2巻収録
  • 「大黒柱悲話」→『ギョ』2巻収録

全10話のうち半分が単行本未収録作品だ。
再録作品のうち絶版になっているものもあるため、まとめて読めるのはありがたい。

10話のうち半分が単行本未収録作品だ。
再録作品のうち絶版になっているものもあるため、まとめて読めるのはありがたい。

えむ

最高にクレイジーな伊藤潤二作品ベスト、家宝!

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