伊藤潤二作品のあらすじ、登場人物はもとより、原作とアニメの違いや私が気になるポイントについても深掘りしていく【伊藤潤二徹底考察シリーズ】
この記事では、大人気シリーズである双一シリーズから数々の呪いが繰り広げられる『双一の勝手な呪い』をピックアップ。作品の魅力を読み解く。
双一シリーズ紹介
小学校高学年※の双一が主人公の人気シリーズ。
双一は根暗でひねくれた性格で、呪いを使って親族やクラスメイト、教師などに悪事を働く。
※……初登場時は小学5年生
『双一の勝手な呪い』登場人物・相関図
主な登場人物
双一
主人公の小学生。根暗で自己中心的な性格。クラスメイトに様々な呪いをかける。
仲良し三人組:河合・石坂・山田
クラスの仲良し三人組。双一に勘違いされ、被害を受ける。
杉林の地主
杉林が荒らされている事に憤り、犯人を探す。
人物相関図
『双一の勝手な呪い』ストーリー
双一は杉林で夜な夜な呪いをかけていた。
双一は喧嘩に負けた秋山から黒田への呪いを請け負い、黒田に見立てた人形を杉林に埋める「冬眠の呪い」を仕掛けた。
結果、黒田は行方不明になり、のちに杉林に埋まっているところを地主に発見された。
呪いの報酬として双一は秋山から外国製の懐中電燈を受け取った。
次のターゲットになったのはクラスの仲良し三人組。三人のうち、石坂と河合が仲違いしたのではと邪推して、河合に「クモの呪い」を仕掛けた。
石坂に呪いの見返りを要求すると、逆に皆の前で非難されてしまった。恥をかかされたと憤慨した双一は石坂への復讐を決意した。
石坂を自ら公園に呼び出し、巨大なクモとなって脅かそうとしたが、逆に杉林に逃げ込まれ、地主が仕掛けた罠に引っかかってしまった。
絶体絶命のところを兄の公一に助けられ、難を逃れた。
『双一の勝手な呪い』考察
様々な呪い
作中では4つの呪いが行われる。
- 五寸釘の呪い
- 冬眠の呪い
- クモの呪い 1
- クモの呪い 2
五寸釘の呪い
双一が気に入らない他クラスの生徒・大谷を呪った。
杉林でターゲットに見立てた人形の腹に複数の釘を打ち込むと大谷が腹痛で倒れてしまった。
杉に釘を打ち付けたことで地主の怒りを買う。
冬眠の呪い
双一が下校途中に発見した冬眠中のカエルからヒントを得ている。
呪いの対象者である黒田に見立てた人形を土に埋めることで、黒田本人も土に埋まってしまう。
果たして、黒田はどうやって土に埋められたのか。
可能性として考えるのは人を操る魔術を使って黒田が夢遊病のようになり、自ら土を掘ってその中に入り込んだのではないかということだ。
しかし、周辺にはシャベルもなく、本人の首から下は隙間なく埋まっている。
この事からも自ら土に入ったとは考えにくい。
では落とし穴に落ちたのではないか。
これも難しい。埋まった黒田を発見した地主が近くに寄っても問題はなかった上に、落とし穴であれば隙間なく土に埋まるのは困難だ。
もはや超常現象としか考えられない。不思議な呪いだ。
クモの呪い 1
自宅の屋根裏で見つけたクモからヒントを得た呪い。
河合に見立てた人形の腹を針で突き、河合を腹痛にさせてトイレに誘い込んで閉じ込めたところで、巨大なクモが出現。クモの糸でグルグル巻きにされてしまう。
河合が幻覚を見せられたのは間違いないだろうが、双一は手を下さずに河合をクモの糸に見立てたトイレットペーパーでグルグル巻きにする。
これも超常現象だろうか。
私はこの呪いが一番好きで、トイレットペーパーをグルグルと巻かれた河合をキレイだなと感じる。
クモの呪い 2
最後にして最大スケールの呪い。
双一が巨大なクモに扮して逃げる石坂を追いかける。
電柱や街路樹と同じぐらいかそれ以上のクモとなった双一は迫力満点だ。
しかし、クモなのに手2本、足2本の二足歩行でどう見ても人間である。
このツメの甘さが双一らしくて憎めない愛されキャラだ。
今までの呪いと比べても双一が自作した感が強く、呪いというよりも仮装大賞のソレである。
地主の逆襲
本作で一番怖いのは杉林の地主だ。
河合からは「スギ林の鬼の地主」と呼ばれており、周囲からも怖がれている。
杉林を荒らした犯人を憎み、怖い顔で罠を設置しながら「捕まえて八つ裂きにしてやる」と言ったり、罠にかかった双一に斧を投げて「今夜死ぬのはお前だ」と言ったりと、危ないキャラクターだ。
兄の助けがなければ双一の命はなかったかもしれない。
地主を言葉で丸め込んだ双一の兄・公一はなかなかの度胸と機転が効くナイスガイである。
伏線を楽しむ
一見無意味と思えるシーンも実は後の伏線になっている。
双一が秋山から受け取った懐中電灯は、この後屋根裏の探索に使われる。ここで見つけたクモが、後で「クモの呪い」へとつながった。
河合と石坂が帰宅途中に雑談しているシーン。ここにトラバサミを持って徘徊する杉林の地主が登場する。この罠が、石坂に取ってはピンチを救ってくれた救世主、双一にとっては呪いの遂行を邪魔する伏兵となった。
狩猟に使う罠の一種。中央の板に獲物の足が乗るとバネ仕掛けによりギザギザの刃が足を挟み込む。
現在では法律改正により、使用が禁止され、販売も規制されている。
一度読んだあとで再読すると、クモの巣のように伏線が張り巡らされていることに気づく。
アニメ版『双一の勝手な呪い』を徹底解剖
原作との違い
アニメ『伊藤潤二コレクション』第1話に選ばれた「双一の勝手な呪い」
大筋は原作と同様に展開していたが、変更点もあった。
私が気になったのは、地主。
最終的に双一を捕まえたところでは危険なキャラクターそのまま。
しかし、踏んだ人形の音が原作のグシャからピーに変更されたり、罠を設置して「こいつで犯人を八つ裂きにしてやる」と言う部分がカットされており、地主の怖いイメージが抑えられている。
原作でも秋山が双一に直接呪いを依頼するシーンはないが、秋山のソワソワした態度や、渡り廊下で二人が密談するシーン、懐中電燈を渡すなど、暗に依頼したと示すところがある。
アニメでは渡り廊下のシーンがカットされており、人によってはなぜ双一が急に懐中電燈を渡されたのか分からないかもしれない。
アニメ版の見どころ
双一が秋山からもらった懐中電燈で自らを照らす演出は、双一の無邪気な一面が見られるユーモラスなシーン。
照らす色も変更できるようでアイドルのライブでよく見るサイリュームのようだ。
授業中に生徒が伊藤潤二作品の『黴』の冒頭部分を音読しているのも面白い。
アニメ版で一番の見どころは、巨大スパイダーになった双一が石坂を追いかけるシーン。
原作でも迫力があるが、動画になるとさらに迫力が増していた。
トイレットペーパーでグルグル巻きになった河合の耽美さを見ないで死ねないわ
『双一の勝手な呪い』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『双一の勝手な呪い』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集3 双一の勝手な呪い』
双一シリーズ(少年編)がまとめて収録されている。
※『双一の愛玩動物』『魅入られた双一』は含まれません