伊藤潤二作品の人気シリーズ・富江。そのなかでも、富江の正体を描く『富江・画家』は人気の作品だ。
シリーズ当初から一貫した高慢な態度で画家の人生を狂わせる富江、そして画家が完成させた富江の絵とは?
この記事では『富江・画家』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『富江』シリーズ一覧
富江を主人公とした「富江シリーズ」は多くの作品がある。今回紹介する『富江・画家』はシリーズ中盤の作品だ。
『富江・画家』のストーリー【ネタバレ】
堀江ナナをモチーフにした「ナナ」シリーズが評判となった画家・森光夫。森の端正な顔立ちから女性ファンも多く、個展は大盛況だった。
女性ファンのサイン攻めにあっていた森は、その輪の外に美しい女性を見つける。森は美しい女性に絵の感想を聞くが、モデルを変えたほうがよくなると言われてしまう。
アトリエでナナをモデルにした作品を描いていた森は、先日の個展で美しい女性に言われたことを思い出していた。そのとき、背後から大きな笑い声とともに先日の美しい女性が現れる。
美しい女性は、ナナに対して「先生はナナシリーズに飽きた。描く気がしない」と言っていたと嘘をつき、それに激怒したナナはアトリエを出ていってしまう。
困り果てた森に美しい女性は、自分をモデルにすればいいと言った。
そして、森が名前を聞くと彼女は言った。
「私?トミエっていうの」
富江は自分の美しさを語り、その美しさを森が表現できるのかと挑発する。
森は美しさを残したいのであれば、写真を撮ればいいじゃないかと言うが、富江は写真の話を嫌がった。
少しの間あったあと、森は富江の美しさを表現できると言い切った。
1週間後、森の描いた富江が完成した。
しかし、富江は絵を気に入らず「私の美しさの10%も描けていない」「無能」と捨て台詞を吐いて去っていった。
富江が出ていってから、森は自分の描く絵に満足できなくなっていく。ナナシリーズを再開しても、満足できるものは描けない。
富江に取り憑かれてしまった森は富江の絵を描き出すが、それでも納得できる絵は完成しなかった。
バーで酒をあおっていた森に美大の同期である増田が声をかけた。
増田は森の個展が延期になったことを心配しつつ、同じく同期の岩田忠夫が注目されていると話し出す。
岩田はいいモデルを見つけたらしい。
増田は岩田がモデルといるところを写真に収めていたが、モデルの顔がブレていて、失敗だという。
その写真には奇妙に顔が分裂した富江が写っていた。
いても立ってもいられない森は岩田の家を訪れ、言い合いになった結果、岩田を殺してしまう。
森の背後から姿を現した富江。
富江に助けを求められた森は、今度こそ富江の美しさを表現することを誓い、富江をアトリエに連れ戻す。
アトリエに戻った森は富江の絵を描ききったが、完成したのは分裂した富江だった。
最低の絵だと言い放ち、笑う富江に激昂した森は、富江を殺してしまう。
そして、ばらばらになった富江から、また新たな富江が生まれはじめていた。
『富江・画家』のおすすめポイント・解説
富江から現れる富江
絵のモデルになる富江は相変わらず美しい。
森から写真を撮れと言われたときの態度や、岩田との写真のとおり、富江は写真NGだ。
富江が写真を撮られると富江本体の顔から別の顔が現れてしまうというのは『富江・写真』のなかで初めて言及された。その設定が『富江・画家』でも引き継がれている。
ちなみに、富江の一部分から新たな富江が誕生するというのは富江シリーズ1作目『富江』から、ずっと引き継がれいる。
森の最高傑作
写真NGの富江が自分の美しさを残すのに選んだのは肖像画。そして画家である森に目をつけた。
写真でなければ大丈夫だと思っていた富江だったが、結局は顔から生み出される富江を描かれてしまい、もくろみは失敗。
森が完成させた絵は、富江の内に潜む富江を完璧に捉えていて、まさしく最高傑作だ。
その絵だけでもポスターサイズで発売して欲しい……。

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富江シリーズの初期から中盤までが収録されている。