伊藤潤二作品のあらすじ、登場人物はもとより、原作とアニメの違いや私が気になるポイントについても深堀りしていく【伊藤潤二徹底考察シリーズ】
この記事では『噂』をピックアップ。人気キャラクターの双一が、同じく大人気の《あのキャラクター》と邂逅する作品の魅力を読み解く。
双一シリーズ紹介
小学校高学年※の双一が主人公の人気シリーズ。
双一は根暗でひねくれた性格で、さまざまな策略をめぐらし、親族やクラスメイト、教師に悪事を働く。
※……初登場時は小学5年生
『噂』登場人物・相関図
主な登場人物
双一
主人公。根暗で自己中心的な性格。自分の目的のために様々なデマを流す。
咲山みどり
ヒロイン的立ち位置。自分の美貌に酔いしれた性格の悪い女。
ファッションモデル(淵さん)
女性誌に登場するファッションモデル。容姿の不気味さで見る人に恐怖を与える。
人物相関図
『噂』ストーリー
小学6年生のみどりは自分が一番かわいいと信じ、クラスで1,2を争う美少女まどかに対し、対抗心を燃やしていた。
一方、みどりに思いを寄せる双一は、クラスを巻き込み、自分を良く見せようと様々な嘘の噂を流してみどりの気を引こうとしていた。
みどりが双一の自作自演に気づき、皆の前で暴露すると、皆は興味を失った。
数日後、黒板に気味の悪いファッションモデルの写真が張り出され、新たな噂が流れた。
下校途中に4年生の子どもたちが、暗い路地でものすごく背の高い女に呼び止められ「私、キレイ?」と聞かれる。だんだん目が慣れてきて、女の恐ろしい顔を見て逃げ出すと、女がものすごい勢いで追いかけてくるという噂だ。
女は黒板に張り出されたあのファッションモデルらしい。
町外れにある「乙女が淵」のドロ沼に入ると綺麗になるという噂があり、モデルは美容のためにやって来たというのだ。
ライバルのまどかが沼に浸かって綺麗になったという噂を聞き、みどりも負けじとドロ沼に入りに行った。
そこへカメラを持って待ち構えていた双一が登場し、噂は自分が流したデマだと言って、写真を撮り始めた。
みどりが憤慨すると、背後から巨大な女がぬっと現れ、無断撮影だと双一に怒り出した。
みどりは恐怖のあまり動けなくなった双一を置いて逃げ出した。
『噂』考察
双一と淵さんの遭遇
『噂』で一番の見どころは、伊藤潤二作品の人気キャラクター双一と淵さんの遭遇だ。
二人が出会うシーンにはニヤリするファンも多いだろう。
冒頭、双一は雑誌で淵さんを見て「世にも不気味なビューティフルレディー」とつぶやいている。
この時点で勘の良い読者ならば女性誌のモデル+不気味で淵さんが思い浮かぶ。
双一が淵さんと遭遇するシーン。
沼のなかからザザザと登場する淵さんは飲み込んだカエルを吐き出しながら立ち上がる。
そのスケールは「ファッションモデル」登場時と比べて大きく増しているように感じる。
「肉がやわらかくておいしそう」と言いながら襲いかかってくる淵さんを前に、腰を抜かしてしまう双一のその後は本作に描かれていない。
読者は双一も終わったか……と思うに違いない。
しかし、双一と淵さんは思わぬ形で伊藤潤二作品に再登場することになる。
その布石としても「噂」は重要な役割を果たしている。
都市伝説のアレンジ
「噂」は、有名な都市伝説「口裂け女」の話をもとにアレンジされている。
下校途中の小学生が、マスクで口元を覆った背の高い女に呼び止められ、「私、キレイ?」と聞かれる。
「キレイです」と答えると女はマスクを外し、耳の近くまで裂けた口を見せて「これでもキレイ?」と聞いてくる。
小学生は逃げようとするが、捕まって殺されてしまうという都市伝説。
全国にさまざまなバージョンが伝わる。
淵さんと「口裂け女」には共通点がある。
- 背の高い若い女
- 大きな口
「口裂け女」は出典によっては大量の歯が生えた口で噛み殺すと記載されているものもあり、それも淵さんとの共通点と言えるだろう。
本作では、双一が流した「噂」によって様々な出来事が起きる。
双一もまさか自分がネタにした淵さんと出くわすとは思っていなかっただろう。
一方、淵さんはどこで双一が創り出した「綺麗になる沼」の噂を聞いたのか。
双一の行動範囲はそこまで広くないと考えると、女子生徒から母親へ、口コミで街の外まで広まっていったのではないか。
美の追求に余念がない、淵さんの努力の賜物である。
しかし、淵さんを噂のエッセンスとして都合よく使った双一はその代償を払うことになったのだ。
アニメ版『噂』を徹底解剖
原作との違い
伊藤潤二『コレクション』のトリを飾ったのが「噂」
多少カットされたシーンがあったものの、ほとんど原作に沿って作られていた。
原作の冒頭で双一が淵さんの写真を見て「世にも不気味なビューティフルレディー」とつぶやく部分もカットされた。
代わりに、双一は同じセリフを沼で淵さんを見た時に口走っていた。
アニメ版の見どころ
原作では名前だけ登場する、スモッグスの健太郎の容姿は見どころだ。
書きっぷりからしておそらく人気アイドルということは分かったが、沢田研二っぽいキザなキャラクターだったとは……。
淵さんを口裂け女に見立てて、語られる噂がいかにも都市伝説風で、ワクワクする。
最後に双一と淵さんが邂逅するシーンは淵さんのサイズが何倍にも増しており、双一の恐怖感が伝わってきた。
双一と淵さんが出会うシーンは見逃せない!
『噂』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『噂』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集3 双一の勝手な呪い』
双一シリーズ(少年編)がまとめて収録されている。
※『双一の愛玩動物』『魅入られた双一』は含まれません