伊藤潤二『案山子』ストーリー・おすすめポイント【ネタバレあり】

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伊藤潤二『案山子』

伊藤潤二作品のなかで、切ないホラー作品に位置する『案山子(かかし)』

亡くなった人が案山子として蘇るような切なさもあり、案山子の表情が怖くもあり、ホラーマンガという言葉だけでは語り尽くせない名作だ。

この記事では『案山子』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。

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注意
この記事にはネタバレを含む。
また、生理的に不快な表現があるため、ご注意願いたい。

目次(読みたいところをタップ)

『案山子』のストーリー【ネタバレ】

田園の中を沼田さんの娘・由紀の葬列が通り過ぎる。由紀は、自ら命を絶ったのだという。
親1人子1人だっただけに、父の悲しみは深かった。

由紀以外にも、川で茂という子供が亡くなっており、近所では葬儀が続いていた。

葬式から何週間も経ったが、沼田家の墓の前には今日も父がいた。

父の後ろには花を持った青年(俊夫)が立っている。
俊夫に気づいた父は激怒し、俊夫のせいで由紀が死んだのだと詰め寄った。

胸ぐらをつかまれた俊夫は、父が結婚に反対しなければこんなことにはならなかったと反論する。

さらに怒った父に突き飛ばされた俊夫が、花を供えるまで帰らないと言うと、父は「イタチ野郎」と罵り、立ち去った。

花を供え、墓に向かって話す俊夫。

俊夫の後ろから案山子を持った父が現れ、墓の前に突き刺す。
「イタチは寄り付くな。とっとと帰れ!」と言われた俊夫は、諦めて帰っていった。

田んぼでは案山子がなくなり、困っている農家の人がいた。
農家の人は、墓に案山子が立っているのを見つけ、確かめにいく。

しかし、案山子を間近で見ると「うちの案山子じゃない」と言う。
その後ろから由紀の父がやってきて、案山子を勝手に持ってきたことを謝罪する。

父が改めて案山子を見ると、案山子からは髪が生えはじめていた。
それから4日。案山子の髪は伸び、由紀そっくりになっていた。

父は案山子を地面から抜き、「返事をしてくれ」と呼びかけるが、返事はなかった。

茂の墓の前では、節子(茂の母)が泣きながら、本当に事故だったのだろうかと夫に問いかけている。
その横を由紀の父が案山子を持って通り過ぎようとしていた。

茂の父が案山子を持ってどこに行くのかと尋ねると、これは案山子ではなく娘だと言う父。
父に抱えられた案山子は、長い髪が生えているものの、顔はへのへのもへじだった。

町では、墓に案山子が立っていると話題になっている。
沼田家の墓に集まっていた人々は、そこに立つ案山子が由紀にそっくりで、よく出来ていると話していた。
そこに由紀の父がやってくる。

父いわく、これは由紀の魂が乗り移った案山子だという。
家に持ち帰るとただの案山子に戻ってしまうため、墓に立て、由紀が好きだった洋服を着せているそうだ。

そのうち、墓は案山子だらけになっていた。
墓参りに訪れた俊夫は、その異様な状況を不思議がる。

俊夫が由紀の墓の前に着くと由紀の姿をした案山子が悲しそうに俊夫を見つめていた。
茂の墓の前では、節子が案山子を立てようとしているところを夫が必死に止めていた。

節子は、夫が茂の本当の父親ではないから止めるのだと言い、案山子を立てさせたくない理由があるかと問う。
仕方なしに案山子を立てることを認めた夫だが、案山子を怖がっているようだ。

由紀と結婚の約束をする俊夫。
由紀が「あんなでも?」と指差したのは、由紀の姿をした案山子だった。

飛び起きた俊夫は、墓場で寝てしまっていたことに気づく。家に帰ったはずが、知らぬ間に戻ってきてしまっていたのだ。

ヒソヒソと話はじめる案山子たち。
案山子たちの視線から逃げようと必死に走る俊夫だったが、疲れて足を止めたのは、由紀の姿をした案山子の前だった。

由紀にコートを着せるのだと意気込み、墓に向かう由紀の父。
墓に着くと由紀の姿をした案山子の下敷きになっている俊夫を見つけるが、俊夫はすでに死んでいた。

茂の姿をした案山子は、憎しみの表情を浮かべて節子の夫をにらんでいた。
焦った夫は、案山子を引っこ抜いたはずみで、後ろにあった段差から落ちる。

夫の体には、茂の姿をした案山子が突き刺さっていた。
夫が茂に手をかけたのだと気づいた節子。

茂の姿をした案山子は、無表情になっていた。

由紀の父は、由紀の姿をした案山子と俊夫をそのままにして立ち去る。
案山子たちは、風になびいていた。

『案山子』のおすすめポイント

亡くなった人の姿になる案山子

『案山子』では、亡くなった人のお墓の前に案山子を立てると、案山子がその人の姿になっていく。

場所がお墓であることと、案山子の表情が怖いので、ホラー感が強い。
しかし、突然訪れる死者との別れによる喪失を埋められる存在としての案山子もあるのではないか。

死者との別れの時間を作るのは、伊藤潤二作品の『緩やかな別れ』でも別の形で描かれています。
どちらも死者との別れについて考えられる作品だ。

茂を殺した犯人が分かるミステリー要素も含んでいて、その部分も楽しめる。

茂の表情

メインストーリーは由紀と父、そして俊夫ですが、茂の一家も登場する。

茂は川で事故により亡くなった子供ですが、茂の案山子によって事故ではなく殺されたことが分かる。
注目するのは、犯人を見る茂の表情。

犯人への憎しみが溢れ出た茂の表情を見るだけで犯人が分かるほど壮絶な表情だ。
由紀のストーリーだけではなく、茂のミステリーにも注目してほしい。

えむ

『案山子』は悲しいホラーが好きな方におすすめ

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【参考】
・伊藤潤二傑作集7『首のない彫刻』p325-356「案山子」

伊藤潤二『案山子』

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