伊藤潤二作品の人気シリーズ押切異談。
シリーズ名にもなっているのが、この記事で紹介する『押切異談』だ。
ドッロドロのバケモノと、『侵入者』でいよいよ姿を見せたトオル同士の対決にも注目!
この記事では『押切異談』のストーリーと謎、私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『押切異談』シリーズ一覧
押切トオルが主人公の怪奇作品『押切異談』は全部で6作品ある。
今回紹介する『押切異談』はシリーズ終盤だ。
『押切異談』のストーリー【ネタバレ】
自分の屋敷から抜け出そうとするクラスメイト・藤井未央を発見した押切トオルは未央を追いかける。
一度は捕まえたものの、屋敷にいる理由を問いただしている間に、未央再び逃げ、スッと消えてしまった。
トオルはその様子を呆然と眺めていた。
教室で未央を見つめるトオル。屋敷で見たのは異次元の未央だったのではないかと考えを巡らせる。
視線に気がついた未央がトオルにところへやってきて、なにか用があるのかと聞くが、トオルははぐらかす。
その様子を見ていたクラスメイト・青山が、身長の低さでトオルをイジると、喧嘩に発展する。
喧嘩は未央が仲裁に入ったため、大きな騒動になることはなかった。
屋敷に帰ったトオルは、押切!押切!と呼ぶ青山の声を聞き、自室のドアを開けた。
そこには溶け始めた人型のばけものがいた。
トオルに向かってくるが、ばけものは途中でドロドロに溶けてしまう。廊下には溶けた跡が残っていた。
トオルが登校すると青山はきちんと来ており、昨日の青山がなんだったのか、疑問が深まる。
未央に声をかけられたトオル。未央はトオルの屋敷に行きたいと言い出し、強引に屋敷までついてくる。
屋敷入れない理由を聞かれたトオルは異次元の入り口があるからと伝えるが、未央は余計に興味を持ってしまう。仕方なく未央を屋敷に入れる事にしたトオルが振り返ると未央は消えていた。
それから3日。未央は学校にも来ていなかった。
異次元に入り込んでしまったのではないかと考えていたトオルは屋敷でズルズルという音を聞く。
自室のドアを開けると、廊下には馬鹿デカいばけものがズルズルとこちらに向かってくる。
声からすると、ばけものは未央だった。
向かってくる最中にも膨張していくばけものは、空間いっぱいに広がり、すべてがドロドロを溶けてしまった
溶けてしまったのが異次元の未央なのか、こちらの世界の未央なのか考えていたトオルは助けを呼ぶ声を聞いた。声のするほうに向かったトオルは、異次元のトオルと未央を発見する。
未央に語りかける異次元のトオル。
その語りによると、青山と未央が溶けてしまったのは、異次元のトオル実験によるものだった。
異次元のトオルが、未央に謎の液体を注射しようとしたそのとき、こちらの世界のトオルが助けに入る。異次元に入り込んでしまったトオルと異次元のトオルの争いがはじまった。
注射器を奪ったこちらの世界のトオルが、異次元のトオルに注射を打つ。
骨が伸び、体が溶けはじめた異次元のトオルは「異次元の世界はひとつではない」と言い、完全に溶けてしまった。
トオルと未央は本来の世界に戻れるのだろうか……。
『押切異談』の謎
未央を助けたトオルは異次元のトオルなのではないか?
トオル同士がもみあった末に、異次元のトオルがバケモノにされてしまった。
それは本当に異次元のトオルだったのだろうか?
こちらの世界のトオルが気になる一言を発している。
「実験は失敗だ!骨と肉に成長のアンバランスが生じたのだ 骨だけが異常に成長している」
伊藤潤二傑作集10「フランケンシュタイン」p160『押切異談』より引用
実験を行っていたことは異次元のトオルが話していたので、こちらの世界のトオルが知っているのは当然だ。
しかし、骨と肉の成長がアンバランスだったからこの結果になったと、すぐ気がつくだろうか?
その後に異次元のトオルの捨て台詞によって、バケモノになったのは異次元のトオルであると判明するが、私は少し疑っている。
未央を助けたのは、また違う次元からきたトオルなのではないかと……。
『押切異談』の見どころ・おすすめポイント
ついに対決!トオルvs異次元のトオル
ここまで押切異談シリーズでは遠くからお互いを見ていたトオルと異次元のトオル。2人のトオルは、今作『押切異談』でついに接触する。
もみ合いになり、片方のトオルが注射を打たれたときには、どちらのトオルが倒されてしまったのか分かない。未央と同様に読者もハラハラと絶望が入り交じった恐怖感を味わえる名シーンだ。
ドロドロ溶けちゃうキャラクターたち
『押切異談』に登場する異質なバケモノといえば、ドロドロ青山とドロドロ未央。
青山の場合は原型を保った状態で現れて、未央はドロドロのジャバ・ザ・ハット状態で登場する。
特に未央の状態は不気味です。
折り重なったグニャングニャンのバケモノがズルズル迫ってくるシーンでは、気持ち悪いやら怖いやら、読んでいるうちに不安になる。
どんどん体が巨大化していく未央は、最終的に廊下のサイズ一杯に広がり、ドロドロと溶けていく。
巨大化していく時のモリモリという擬音が気持ち悪さを増すスパイスになっている。
この未央を見るために『押切異談』を読んでいると言っても過言ではない。

『押切異談』はドッロドロなバケモノが出てくる不思議なホラーが好きな方におすすめ
『押切異談』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。