伊藤潤二作品のなかでも、私のお気に入り作品である『中古レコード』
私もおすすめの作品として伊藤潤二傑作選のおすすめ漫画10選で取り上げている。
聞いた人を虜にしてしまうレコードは魔物のようでありながら、何か輝いて見えてしまう。それが『中古レコード』だ。
この記事では『中古レコード』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『中古レコード』のストーリー【ネタバレ】
中山は小川の部屋でレコードを聞いていた。
レコードに入っている曲の虜になっていた中山がレコードの録音を申し出るも、小川はなにかと理由をつけて拒否する。
同じレコードを買えばいいという小川だが、タイトルも歌手名も分からないのに買えないという中山。
小川にレコードを購入した店を聞くが、教えてもらえない。
そうこうするうちに2人はケンカになり、中山は部屋を飛び出した。
その直後、レコードが盗まれたことに気がついた小川は中山を追いかけ、近くにあった石を投げつける。
石が当たり、うずくまった中山からレコードを取り返そうとする小川。
中山は近くにあった石で小川を殴り、亡き者にしてしまった。
近くにあったシートで小川を隠し、逃亡する中山。
シートを被せた小川からはレコードと同じ歌声が聞こえた。
レコードプレイヤーを持っていない中山は、プレイヤーを探すために友人宅や楽器店をまわるが、プレイヤーは手に入らなかった。
そんな時に中古レコード店に入り、レコードをかけさせてもらえるよう店主に頼んだ。
店主はそのレコードを見るなり、激怒。レコードは店から盗難されたものであることが発覚する。
すぐ逃げ出した中山は、喫茶店に逃げ込む。喫茶店はジャズ喫茶で、中山のレコードをかけてくれると言う。
レコードの曲が流れ始めるとカウンターにいた男が曲に気がつく。
男いわく、このレコードは「ポーラ・ベルのスキャット」
幻のレコードで、忌まわしい記憶が残るレコードだという。
レコードデビューが決まったポーラは、そのレコーディング日、車にはねられてしまう。
駆けつけたスタッフに自らをスタジオへ運ぶよう頼んだポーラだったが、マイクの下で息を引き取った。
しかし、数分後にポーラが突然歌い始めた。心臓が止まっているにもかかわらず。それを録音したのが、中山が持っているレコードだそうだ。
夢中で話す男が怖くなった中山はレコードを持って店を出る。
その中山をつけるジャズ喫茶の男。
中山は走って逃げるが、前からレコード店の店主がやってくる。
店主に行き止まりまで追い詰められた中山が塀をよじ登ると、そこにはジャズ喫茶の男がいた。
焦った中山はそこから落ち、近くの木材の下敷きになってしまう。
そして中山が落としたレコードは、ジャズ喫茶の男が手に入れた。
亡くなった中山からレコードと同じ歌声が聞こえる。近くで亡くなっている小川からも同じ歌声が聞こえた。
ジャズ喫茶の男は座り込んでいた。2人からあの世のメロディを聞きながら。
『中古レコード』のおすすめポイント
曲の虜になる人々
『中古レコード』では、1枚のレコードを巡って、争いが起こる。
人から奪いたくなるほどの魔性の音楽とは、どんな音楽なのか。中山が聞いている様子を見ると、落ち着けるような曲調なのではないかと思う。
心を落ち着ける音楽が、人の心に住みつき、心を悪魔に変えてしまうとは……。
なんとも恐ろしいヒーリングミュージックだ。
魂のレコーディング
魔のレコードとなってしまった 「ポーラ・ベルのスキャット」だが、作中に語られるレコーディングの様子も気になる。
自らの命よりも、歌を歌いたい。
その気持ちだけでマイクの下で亡くなったポーラが、その後に歌いだしたのは彼女の歌への執念だろう。
ポーラの執念が宿っているからこそ、人々を虜にするほどのレコードが出来上がったのではないだろうか。
『中古レコード』は音楽好き&少し不思議な話が好きな方におすすめ
『中古レコード』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『中古レコード』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集7 首のない彫刻』
ひたすらに怖い『寒気』も収録されています。
【参考】
・伊藤潤二傑作集7『首のない彫刻』p35-68「中古レコード」