伊藤潤二作品のなかでも、そのインパクトが私の心をつかんで離さない『ご先祖様』
私もおすすめの作品として伊藤潤二傑作選のおすすめ漫画10選で取り上げている。
主人公・理佐が記憶をなくしてしまうほどショックを受けた『ご先祖様』のビジュアルはホラー漫画好き必見だ。
この記事では『ご先祖様』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介する。
『ご先祖様』のストーリー【ネタバレ】
牧田秀一に連れられて自宅に戻った理佐。
家に入った牧田は理佐が記憶喪失のようだと理佐の母に伝える。
母は理佐を病院に連れていったが、医師によると脳に異常はなく、精神的なショックが原因なのではないかとの事だった。
理佐のお見舞いにきた牧田。
理佐は牧田を思い出せないことに申し訳なさを感じているが、牧田はまた楽しい出来事を最初から体験できると言って理佐を励ましていた。
不安に苛まれて寝られない理佐がベットの上で起き上がるとドアをノックする音が聞こえた。
ノックの後、開いたドアの隙間を押し入るようにして巨大な毛虫が入ってくる。
恐怖で叫んだ理佐のもとに両親が来るが、もう毛虫の姿は見えなかった。
またお見舞いに訪れた牧田を相手に毛虫の話をする理佐。牧田は気晴らしに外出しようと理佐を誘う。
外出した2人は河原を訪れた。ここは牧田が理佐に告白した思い出の場所なのだが、理佐の記憶は戻らない。
そこで、牧田は理佐を自分の家に連れていった。牧田の家に入った2人。
父の部屋をノックした牧田だが、父の応答はなかった。牧田いわく、父は寝たきりの状態だという。
2人が雑談しているとズルズルと音が聞こえた。牧田の父が起きたようだ。
ドアが開き、足から這うようにして出てきた父。頭の先はドアに隠れている。
理佐に挨拶する牧田の父。自分が死んだら牧田を頼むといい、部屋を出ていった。
自分の家に帰った理佐は、以前と同じ不安に頭を抱えていた。
そこに牧田が急いだ様子でやってくる。牧田の父が危篤になり、理佐に会いたがっているということだった。
牧田の家に連れて来られた理佐は牧田の父の部屋に入る。
そこには牧田の父の頭から長々とつながる頭蓋骨の集合体があった!
頭蓋骨は頭皮で覆われ、その中には脳が入っている。それが先祖代々繋がっているのだ。
そしてすべてを思い出した理佐。
理佐はこの累々とつながる頭蓋骨を見て記憶をなくしてしまったのだ。
牧田は子孫を残すため、理佐に結婚して欲しいというが、あまりの恐怖に逃げ出す理佐。
走り出した理佐の足元にはおぞましく連なる頭蓋骨があり、理佐は転倒してしまう。
いよいよ理佐が牧田の手にかかろうとしたその時、牧田は頭を抱え、父のもとに向かった。理佐はおそるおそる牧田が入っていった部屋のドアを開ける。
そこには頭蓋骨のない父が横たわっており、連なる頭蓋骨をかぶる牧田がいた。
牧田の先祖たちから理佐を捕まえろと命令が飛ぶ。また逃げ出した理佐を這いずりながら追う牧田。
理佐は恐怖で失神してしまった。
先祖たちからの声が聞こえる。「これで牧田家は安泰じゃ」
『ご先祖様』のおすすめポイント
何と言っても着想が異常
まず驚くのは伊藤潤二先生の着想。先祖代々頭蓋骨が繋がってるなんて、どこをどう考えたら思いつくのか……。
脈々と続く「ご先祖様たち」のビジュアルはおぞましいという言葉では形容できないほどに不気味で、理佐が記憶喪失になっても不思議ではない。
『ご先祖様』を読んでいる人でさえも、夢に出てきてしまうのではないだろうか?
牧田秀一の悲哀
『ご先祖様』のなかで私が一番好きなシーンは、牧田の父が亡くなったあとに牧田が先祖代々の頭蓋骨をかぶるシーンだ。
かぶっているところも衝撃的だが、それよりも牧田の表情に注目ほしい。
先祖代々の頭蓋骨を守るのは牧田しかおらず、脳を持ったご先祖様たちは言いたい放題。
父からも理佐を逃さないようにプレッシャーをかけられる。
そんな重圧のなかで、父の死という悲しみの真っ只中、ご先祖様たちを引き継ぐ。
そんな牧田の悲哀が込められた表情。ぜひ注目ほしい。
『ご先祖様』は気持ちが悪いけど少し悲しいホラーが好きな方におすすめ
『ご先祖様』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『ご先祖様』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集9 墓標の町』
『なめくじ少女』『隣の窓』『長い夢』といった怪作も収録されている。