伊藤潤二作品のなかでも、恐怖と切なさが同居した作品『橋』
まず、手招きする大勢の幽霊たちのビジュアルが怖い。そして、亡くなったあとに体を川に流す風習と、おばあちゃんの恋が切ない名作です。
この記事では『橋』のストーリーと私が選ぶおすすめポイントを紹介します。
『橋』のストーリー【ネタバレ】
加奈子は田舎で一人暮らしをしている祖母からの連絡を受け、祖母の家に向かって車を走らせた。
車を止め、狭い山道を抜け、橋を渡る。
橋のなかほどで老人を見つけた加奈子は、老人に祖母の知り合いなのか尋ねると老人は頷いた。
一人で暮らす祖母を気にかけてもらうようにお願いし、加奈子が老人を祖母の家に連れていこうとすると、
姿勢を正した老人の顔が溶けていた。
あまりの恐怖に祖母の家の戸を叩く加奈子に迫りくる老人。
すんでのところで祖母の家に入った加奈子は、あの老人が何者なのかを祖母に尋ねた。
祖母いわく、あれは錦五郎さんで、ずっと前に亡くなった祖母のおじいさんだと言う。
祖母が一人になってから出るようになった幽霊だそうだ。
外から「おそでちゃ〜ん」と祖母を呼ぶ大勢の声が聞こえる。
祖母を川の底に引きずり込むために、橋の上で大勢が手招きをしていた。
夜中じゅう呼び続けられるため、祖母は寝られない。
加奈子もこの状態では寝られないため、祖母がむかしの話をしてくれることになった。
祖母が今の家で生まれたころ、この村には変わった葬式のやり方があった。
葬式の日は死者を見送るため、村中の人が川岸に集まる。
祖母は橋の上からその様子を見ていた。
そして、畳の上にのった錦五郎さんが川を流れてくる。
錦五郎さんが橋の下を通過するところで、引っかかってしまい、体は川に沈んでいった。
体が落ちてしまうと成仏ができないそうだ。
この葬式が最後に行われたのは正吉さんのとき。
正吉さんは体が大きい男だったが、やさしい人で、祖母の初恋の相手。
その正吉さんは20歳のときに木の下敷きになって亡くなってしまった。
体が大きかったため、畳を2枚使うことになり、村人たちはその行方に注目していた。
正吉さんは橋を通過できず、その大きな体のせいで橋につっかえてしまう。
その様子を橋の上から見ていた祖母は、正吉さんと目が合った。
「おまえも早くこい」という目に見えたそうだ。
つっかえた正吉さんは村人の手によって川の底に沈んでいった。
祖母の話が終わり、加奈子が外を見ると、橋の上にいる大勢とは別に川から出ている大男をこちらを見ている。
話し終わると、祖母は土に埋めてくれと言い残し、倒れてしまった。
車の中で目を覚ました加奈子。
加奈子は、祖母の家に向かう途中に眠くなり、仮眠を取っていたのだった。
橋に向かうと、夢と同じく老人がいる。
加奈子が挨拶をすると、老人は「おそでさんはついさっき亡くなりました」と言った。
急いで祖母の家に入った加奈子だが、祖母の姿はなく、畳が1枚なくなっている。
加奈子が外に出ると、橋の上には大勢の幽霊がおり、祖母が流れてくるのを待っているようだ。
そして、流れてきた祖母の目は開いていた。
橋にさしかかった祖母は、畳から落ちてしまい、川の底に沈んでいく。
その様子をみた橋の上の幽霊たちは、やっと正吉さんと一緒になれたと喜んでいる。
呆然と川を見つめている加奈子は、祖母が川に沈む前、目が合ったと感じていた。
我に返り、橋を見るとそこには誰もおらず、川には多くの人影が漂っていた。
『橋』のおすすめポイント
錦五郎さんが怖すぎる
加奈子が最初に橋で会うのが、祖母の祖父である錦五郎さんだ。(加奈子の高祖父にあたる)
この錦五郎さんの溶けた顔がめちゃめちゃ怖い。
錦五郎さんがじわりじわりと加奈子に迫ってくる冒頭のシーンは読んでいるこちらが焦せる。
怖すぎる錦五郎を見るために『橋』を読み返すと言っても過言ではない。
不思議な風習
『橋』のメインテーマである、変わった風習(葬式)も興味深い。
亡くなった人を畳にのせて、川に流すというだけではなく、橋を通過できるかどうかで成仏できるか判断する。
この風習は正吉さんで終わりますが、変わった風習というのは密かに続けられるものかもしれない。
『橋』は怖くて不思議なホラーが好きな方におすすめ
『橋』のみ読みたい方はKindle版がおすすめ。
『橋』が収録された単行本を購入するなら『伊藤潤二傑作集7 首のない彫刻』
名作『中古レコード』怖すぎる『寒気』などが収録されている。