2019年3月、伊藤潤二画集『異形世界』が発売された。
画業30周年を記念し、出版元の朝日新聞出版以外に、小学館、秋田書店、メディアファクトリーなど出版社の垣根を超えてイラストを収録している。
この記事では『異形世界』の収録作品から、私のお気に入り作品、みどころを紹介する。
収録作品
- 富江シリーズ:23点(カラー15点、モノクロ8点)
- うずまき:17点(カラー11点 モノクロ6点)
- 短編作品の扉絵・口絵、単行本カバーなど 多数
- 展覧会への出品作品
- ドラマCD、DVD、ゲームのジャケットイラスト(伝説探偵団、アニメ伊藤潤二コレクションなど)
- アーティストへの提供作品(でんぱ組.inc×妄想キャリブレーション/氣志團/Sukekiyo/京)
- マンガの予告カット 8点
- マンガのコマからの抜粋 10点
合計133点が収録されている。
今回が単行本への初収録となる、他のアーティストに提供したイラストや展覧会への出品作品も多数あった。
ちなみに今回『人間失格』や『憂国のラスプーチン』からは収録されていない。
私のお気に入り作品
『中古レコード』
『中古レコード』の扉絵はカラーを初めて見た。モノクロと比べて、一段と風合いがいい。
古い喫茶店の内壁のレンガの変色や、壁紙の雨漏りがレトロな雰囲気を感じさせる。
『墓標の街』
『墓標の街』は背景の墓石に浮かび上がった死者たちの表情が見ものだ。
寒々しく不吉な背景のブルーや、人物に投影されたエメラルドグリーンが美しい。
『富江replay』
伊藤潤二傑作集2『富江下』の表紙を飾る『富江replay』
数ある富江イラストの中で、私が最も美しいと感じたのがこちら。
「富江 地下室」の作中に登場する水槽に入った富江を描いたカラーイラストだ。
『地獄の人形葬』
『地獄の人形葬』の一番の見どころである人形化後、放置された娘の末路。
単行本では細かいところまで分からなかった部分が大判になることでいかに繊細な書き込みだったか分かる。
肌の質感が妙に生々しくて最高に気持ち悪い。
美麗な装丁
装丁にもこだわりが感じられる。
カバーイラストはこの本のために描き下ろされた『放射状輪廻(ほうしゃじょうりんね)』
怪しげな女に仕える骸骨は死のイメージ。張り巡らされた糸の中には赤子や胎児の姿が。女たちが操るのは人の運命の糸なのか。
黒やシルバーを基調に、アクセントとして差し込まれる蛍光ピンクにハッとさせられる。
本文のカラーページの縁取りは白や黒だが、モノクロページは明るいグレーの台紙を選んで印刷されており、怪しげな世界をポッと照らしている。
様々なカットを集めた最後のページに至っては、モノクロのイラストが黒い台紙に光沢のあるシルバーで印刷されているのがおもしろい。
絵に焦点を当てたインタビュー
今回『異形世界』のインタビューではイラスト制作に焦点が絞られている。
絵を書く時に心がけていること、影響を受けた人物、お気に入りのキャラクターなど定番の質問から始まり、使用画材などマニアックな物まで先生が丁寧に回答している。
マンガやイラストを描く人には多くのヒントがつまっているのではないだろうか。(私は詳しくないので画材の箇所はちんぷんかんぷんだ……)
伊藤先生は影響を受けた画家の一人としてギーガーを挙げていた。
ギーガーといえば『エイリアン』の造形で有名だが、私はセガサターンのゲーム『ダークシード』のジャケットが強烈に焼き付いており、当時から心惹かれていた。
このインタビューでやっと謎がとけ、私は伊藤潤二先生とギーガーに通じるものがあったのかと納得した。
伊藤潤二先生自らの解説が面白い
巻末にはイラストの初出情報と共に、伊藤潤二先生の一言コメントが添えられている。
たとえば『もろみ』では、
ついに酒になってしまった富江。私も呑んでみたい。きっと悪酔いする。
引用:伊藤潤二画集『異形世界』p140(朝日新聞出版)
など。シュールすぎるコメントがツボに入ってしまった。
おもしろコメント以外にも、作品を描いた当時の記憶などが書かれており、理解の助けとなって楽しく読んだ。
使用画材もコメント欄に細かく記されている。
伊藤潤二先生の美しい絵の数々をいつでも眺められるのは最高
私のお気に入りは『魔の断片』表紙絵。横長を見開きの大画面でドーンと見られると、迫力があっていいわね~!