『伊藤潤二自選傑作集 歪(いびつ)』あらすじ・感想・解説【ネタバレ】-初心者におすすめのサイコホラー

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『伊藤潤二自選傑作集 歪(いびつ)』あらすじ・感想・解説【ネタバレ】
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伊藤先生は端正な絵柄と卓越した発想によるホラー漫画で、日本のみならず、台湾や中国でも人気を博している。2018年1月にはアニメ『伊藤潤二コレクション』が全国放映されたのは記憶に新しいところ。

今回紹介する『伊藤潤二自選傑作集』はこれが2冊目。短編の名手としても知られる伊藤先生が自ら選んだ作品集だ。分厚いわりに紙が軽いので、手が疲れずに読めるハンディタイプとなっている。

「アニメをきっかけに知ったけれど、一体どれから読んだらいいかわからない」というビギナー向けにもおすすめの一冊である。

この記事では、2018年3月に刊行された新しい『伊藤潤二自選傑作集 歪』のあらすじ、見どころを紹介する。

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『伊藤潤二自選傑作集 歪』収録作品のあらすじと解説

「首幻想」

小学生時代から親友だった押切と中島。二人とも背が小さかったが高校に入って急激に背が伸びた中島に対し、押切は激しい劣等感を感じていた。

下手に同情され、かっとなった押切は中島を殺してしまう。自宅の庭に埋めた中島の死体を翌日もっと深く埋めるために掘り起こすと、首が奇妙に長く伸びていた。

ワンポイント解説

様々な怪異に巻き込まれる押切が主人公のシリーズ第一作目。
妄想なのか怪異なのか、見極めがつかない混乱を楽しむ作品だ。

【おすすめ記事】
>>「伊藤潤二徹底考察『押切異談』」へ

「いじめっ娘」

幼い栗子(くりこ)が公園で遊んでいると、近所に引っ越してきた直くんがやってきた。直くんの母から面倒を見てほしいと頼まれ承諾するが、それも毎日のこととなるとうっとうしく感じるようになる。

そのうち、くっついて離れようとしない直くんに意地悪するのが日課になってしまった。

伊藤潤二「いじめっ娘」
出典:『伊藤潤二自選傑作集 歪』p43「いじめっ娘」(朝日新聞出版)
ワンポイント解説

扉絵に大きく描かれた栗子の表情の邪悪さが印象的。
はじめは温和だった少女が、だんだん目が釣りあがったこわい顔になっていくのに注目だ。

「墓標の町」

友人の泉から転居先の家に招かれ、かおると兄は長距離を車で移動していた。道中で少女を轢いてしまった二人は、車に乗せ病院に運ぼうとするが、間に合わずに少女は死んでしまう。

死体の隠し場所を探して走っていると、道の真ん中に墓標があらわれた。

ワンポイント解説

町中至るところに墓が立つ、墓標の町を舞台にしたサスペンス。
主人公たちが追い詰められていく様がスリリングだ。

「うめく排水管」

潔癖で口うるさい母親に育てられた姉妹・令奈(れいな)と真理(まり)。

令奈は臭くて不潔な男・滑井(ぬめい)に言い寄られ、嫌悪していた。それを面白がった妹の真理は滑井を家の前までおびき寄せ、母親に撃退させようとする。

ワンポイント解説

滑井の気持ち悪さは伊藤作品のなかでも屈指。また姉妹の母親も強烈なキャラクターだ。
息もつかせぬ展開で結末になだれ込み、読者の心にダメージを与えるトラウマ作品。

「耳擦りする女」

資産家の娘・まゆみは、どんな些細なことでも人の指示をきかねば判断できない特異な性質を持っていた。まゆみの父は何人もの付添人を雇ったが、一日中質問攻めされるとみな耐えきれずすぐ辞めてしまう。

ところが、新しく雇った美津(みつ)という女性は、まゆみのそばにぴたりと寄り添い、非常に上手く世話を務めた。ただ、美津の顔がどんどんやつれていくのが気がかりだった……。

伊藤潤二「耳擦りする女」
出典:『伊藤潤二自選傑作集 歪』p202「耳擦りする女」(朝日新聞出版)
ワンポイント解説

なんでも人にきかねば行動できない究極の指示待ち人間と、それに寄り添う女の「共依存関係」が鬼気迫る。

美津の養分を吸い取るように元気になっていくまゆみの最終形態に注目。

「なめくじ少女」

おしゃべりで有名だった夕子が、急に無口になった。たまにしゃべっても舌たらずな様子で、そのうち学校にも来なくなった。
心配した友人の利恵が家を訪れると、夕子の自宅の庭になめくじが大量発生していた。

ワンポイント解説

ド直球の気持ち悪さ。と同時に、ラストシーンの夕子に漂う悲壮感が読者の同情を誘う。

【おすすめ記事】
>>「伊藤潤二徹底考察『なめくじ少女』」へ

「肉色の怪」

幼稚園教諭の百子(ももこ)は、乱暴者で力の強い園児・チカラに手を焼いていた。チカラは風貌も変わっているが、そもそも社交性に乏しく表情がない。

家庭に問題があるのではないかと疑った百子は、チカラの母と面談するため家庭訪問をする。母はチカラに愛情を注いでいる様子を見せたものの、百子は家中ビリビリに剥がされた壁紙が気になっていた。

伊藤潤二「肉色の怪」
出典:『伊藤潤二自選傑作集 歪』p250「肉色の怪」(朝日新聞出版)
ワンポイント解説

冒頭の通り魔事件から、主人公の職場の幼稚園での明るい風景に急に切り替わり、読者は戸惑うが結末ではきちんと二つの話が収束する。

伊藤先生お得意のエクストリーム展開と、衝撃のイラストにご注目。

「噂」

みどりはクラスの美少女・まどかと同じ少年に熱をあげ、対抗意識を燃やしていた。そんな中「双一のことが好きらしい」と事実無根の噂を流され、みどりは激怒する。

伊藤潤二「噂」
出典:『伊藤潤二自選傑作集 歪』p308「噂」(朝日新聞出版)
ワンポイント解説

おなじみ、双一が怪奇事件を巻き起こす人気シリーズの最新作。
後半で「ファッション・モデル」という作品の淵さんがダイナミックに登場し、活躍する。

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「緩やかな別れ」

父子家庭で育った璃子(りこ)は、幼い頃から父の死を恐れていた。父の元を離れ由緒ある一家に嫁入りしても、なお、父が死ぬ夢を見て飛び起きる日があった。夫の誠はそんな璃子を優しく見守り、一族になじめるように気配りをしてくれた。

夫の一族には、家族が亡くなったときに恒例で行う奇妙な「ならわし」があった。

ワンポイント解説

じんわり感動してしまう作品。ホラーにはめずらしく、ハートウォーミングな要素がある。
アニメ版も非常に評判がよかった。

【おすすめ記事】
>>「伊藤潤二徹底考察『緩やかな別れ』」へ

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伊藤潤二ワールド・入門編にピッタリ

今回記事を書くにあたり、私はもう一度読み直して、伊藤作品では人間が狂っているところがおもしろいと思った。

全体的には、サイコサスペンスの性格が強い作品群だが、ギャグの要素が強い双一シリーズの「噂」あり、生理的な気持ち悪さを感じる「うめく排水管」「なめくじ少女」ありと、バランス良くいろんなテイストの作品が収録されている。入門書として、おすすめの一冊だ。

ところで、伊藤先生と言えば「富江」というぐらい名高い富江シリーズがこの本には入っていない。

また、富江と双璧をなす人気キャラ・淵さんが登場する「ファンションモデル」が収録されているのは、この前に出た『伊藤潤二自選傑作集』の方だ。

全くの初心者は『伊藤潤二自選傑作集』(無印)から読むことをおすすめする。

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伊藤潤二マニアは必携

先生の自作解説・アイディアノートが読める

この自選傑作集シリーズ。収録作品は伊藤先生のファンであればすでに読んだことのある作品ばかりだろうが、ディープなファンこそ、むしろまた読むべきだ。

なぜならば、各作品の末尾には伊藤先生による「自作解説」の文章が添えられている。内容は制作当時のちょっとしたエピソードや着想のヒントなど。

さらに贅沢なことに、本書には手書きの「アイディアノート」も合わせて収録されている。キャラクターデザインのラフ案やシナリオ。敬愛する伊藤先生の頭の中をのぞき見るような気分を味わえる。素晴らしいファンサービスだ。

単行本未収録作品「魅入られた双一」がおもしろい

巻末4ページだけの短い作品「魅入られた双一」にも先生のサービス精神を感じる。

ファンにはおなじみの双一の他、ある人物が登場するのだが、私は「ここにきて、この二人をぶつけてきたのか!」と意外な驚きを感じた。ファンならぜひ見てほしい作品である。

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おわりに

あとがきには先生の絵に対するこだわりが述べられている。伊藤先生独特の、繊細で耽美な作品は今後も世界中でより多くの読者を虜にするだろう。

作家本人のセレクトによる自選傑作集の2冊、ぜひ多くの人に手に取ってもらいたい。

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【おすすめ記事】
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えむ

えむ

ホラー漫画や怪しげな漫画、バットマン関連の収集に凝っている30代サラリーマン。このブログ「えむ異談」では藤子不二雄(A)、伊藤潤二、呪みちるをはじめとして私が愛する漫画作品を紹介している。

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